篠笛 篠笛の選び方と使い分け 

篠笛の選び方と使い分け(1)   篠笛の選び方と使い分け(2)   五線譜から数字譜起しする方法   篠笛演奏での息コントロール   篠笛の上達方法

篠笛演奏における移調について

  • はじめに
篠笛で演奏したいJ-POPの曲があっても、半音記号(♯,♭)が多い調の楽譜の場合、フルートのような半音キーが付いていない篠笛では運指が難しくて困惑してしまうことがあります。また、篠笛音域の最低音ド(呂音の一の運指)よりも低い音符に遭遇することもあります。このため、やむなく篠笛での演奏を断念してしまう人もいます。
しかし、諦めることはありません。以下で解説する移調を行うことで、篠笛で演奏し易い音域でかつ半音記号が少ない楽譜に変換することができるのです。この移調を自由に駆使することができるようなれば、篠笛演奏の幅が大幅に拡がって楽しみも倍増します。

篠笛演奏では、主に以下の場面において移調を行う必要があります。
 ・♯、♭の半音記号が多い調の曲を、篠笛で演奏し易いように半音が少ない調に変えたい場合。
 ・曲全体の音域が、篠笛の音域よりも高めあるいは低めのため、篠笛で演奏し易い音域にシフトしたい場合。
 ・伴奏を付ける際、手持ちの篠笛の調子の音程に合うように伴奏側を移調したい場合。
 ・曲の途中で転調があって、笛を持ち替えるだけで運指はそのままとしたい場合。
 ・曲想に合った運指に変えたい場合。

以下では、唄用(ドレミ調)篠笛で様々な曲を自由自在に演奏するために不可欠な移調の方法について、音楽知識のない人でも理解できるよう、丁寧に解説していきます。また、カラオケ伴奏に合わせる方法や、自動移調してくれるエクセルの紹介もしています。

移調後

篠笛愛好家にとって残念なことは、楽譜市場においてJ-POPの篠笛譜というものがほとんど流通していないことです。このため、メロディ譜やピアノ譜等を入手して、それを篠笛で演奏し易いように移調して演奏することが一般的に行われています。
移調作業と聞いて、音楽知識がない者では難しいのではないかと思われる人もいるかもしれません。しかし、楽譜作成ソフト(muse score 等)を使えば簡単に任意の調に変換できますし、自動移調してくれるエクセル(篠笛の自動移調Excel)も作成していますので、これらを有効に活用すれば、音楽知識がない人でもそれほど困難な作業ではありません。
ここで解説する移調方法は、フルート等の西洋楽器経験者が篠笛を始めた場合のように、五線譜のまま読譜される人を前提としています。篠笛の数字譜(一、二、三…)で読譜される人の移調については、↓のページを参照ください。
 【五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法】


  • 半音記号の多い調を簡単にしたい場合
フルートの場合は、12平均律音階すべてに対応できる半音キーメカが付いているので、半音記号(♯,♭)が多い調でも、苦もなくそのままの音高(固定ド)で演奏可能です。一方、篠笛で半音を出すには指穴を半分だけ開けるテクニックが必要となりますので、♯や♭が3つ以上付いている調になると、よほどゆったりした曲でない限り滑らかな演奏は困難となります。

篠笛半音


篠笛半音運指

例えば、下の楽譜(アルルの女メヌエット)を例に説明します。この楽譜ではE♭maj(変ホ長調)のため、♭が3つもあるうえ、16分音符中にも頻繁に半音が登場するので、このままでは、篠笛での演奏は難しそうです。

アルルの女運指

このような場合、移調楽器である篠笛ではドレミの位置を上下にずらすことにより、半音記号が少ない調に移調して譜面を読む、いわゆる「移動ド」による演奏が一般的です。

篠笛移調


半音記号が少ない調に移調するには、次の移調時計を用いると便利です。
  • 移調時計(メジャースケール)
下に示す移調時計は、時計回りに1時間進むとkeyが半音高くなり、反時計回りに1時間戻るとkeyが半音低くなるように並べたものです。(いわゆる五度圏に似ていますが、並び順が違います。)例えば♯を1つだけ少なくするには、移調前の時刻より、移調後の時刻が5時間進んでいますので、半音5つ分(5時間)高くすることになります。逆に♭を1つだけ少なくするには、移調前の時刻より、移調後の時刻が5時間遅れていますので、半音5つ分(5時間)低くします。♯1つ減らすのだから単純に全体を半音1つ分下げればいいというものではないところが分かりにくく、移調は面倒だと感じるところです。

移調時計
 
  • 移調時計の使い方
先ほどのE♭maj(変ホ長調)の楽譜(アルルの女メヌエット)を例に、上の移調時計を用いて♭3つを1つになるように移調してみましょう。 
                【Before】
アルルの女【Before】

上の移調時計で♭3つ(E♭maj)から♭1つ(Fmaj)に減らすには、E♭(3時)→ F(5時)まで2時間進め(半音2つ分高くす)ることにより、半音記号が1つの調に移調することができます。これなら、篠笛でも演奏できそうです。
                【After】
アルルの女【After】

  • 西洋楽器と合わせるため、元の音高を維持するには
移調すると、半音記号を減らすことができますが、全体のkeyが元の楽譜から高音側か低音側にシフトしてしまいます。篠笛ソロ演奏しかせず、相対音高さえ合っていれば良いという人なら何も気にする必要はないのですが、他の楽器とセッションするため、「元の音高を維持したいんだけど。」という人の場合、どうすればいいのでしょうか。


移調楽器である篠笛では、こういう場合、一本調子~十二本調子のいずれかに持ち替えることにより、任意のkeyに合わせることになります。下の図は、各調を半音記号がないハ長調に移調した場合に「ド」の高さの音がどのように変化するかを示したものです。例えば、ホ長調(Emaj-♯4つ)をハ長調に移調すると、全体のkeyが4つ低くなりますので、元の音高に戻すためにはkeyが4つ高い(8+4=)12本調子の笛に持ち替えればよいということになります。

篠笛ハ長調移調

しかし、これではあらゆる調を演奏可能としようとすると、12本の調子すべてを揃えなければならなくなってしまい現実的ではありません。そうなるのは、半音記号がゼロのハ長調(イ短調)楽譜の演奏にこだわるからです。普通の篠笛愛好者であれば、半音記号の1つや2つぐらいは許容できるようにならないと、自在な篠笛演奏はできません。特に左手人差指1つ(又は0ポジション)だけ半音を使うFmaj(ヘ長調)は、篠笛譜では頻繁に登場しますので必須テクニックです。

下の表は、F maj(♭1つ)とG maj(♯1つ)で使う半音運指をマスターした場合において、移調後の西洋楽器に合う調子を示したものです。これを見ると、黄色枠で示している一般的に普及している5種類(四~八本調子)の調子だけ揃えれば、すべての調の(伴奏に合わせた)演奏が可能となることが分かります。例えば上の「アルルの女メヌエット」の移調の例では、E♭majから F maj(ヘ長調)に移調していますので、六本調子の篠笛に持ち替えることで、元の高さを維持することができ、ピアノ等に合わせることが可能となるのがこの表から分かります。これより、白枠のレアな調子の篠笛を揃える必要などないことが理解できるでしょう。

篠笛5本揃え

更に、B♭maj(♭2つ)とD maj(♯2つ)の半音運指までマスターできれば、ずっと適用範囲が拡がります。下の表の例は、最も普及している六本調子、七本調子、八本調子の三本だけを揃えた場合の例ですが、半音記号を2つまで許容することにより、すべての調をカバーできることが分かります。
今お手持ちの笛がこれと異なる調子の場合でも、異なる3種類の組み合わせでカバーすることが可能です。

篠笛3本揃え

印刷用の調子対応表こちらから

しかし、そこまでして西洋楽器と合わせたいのであれば、半音キーが付いているフルートやピッコロを使えばよい話であって、趣味で篠笛ソロ演奏だけをやる人なら、上記のような使い分けなどまったく不要で、自分の好きな調子の笛1本だけあれば、何の支障もなく演奏を楽しむことができます。 

  • 最低限ヘ長調(♭1つ)とト長調(♯1つ)はマスターしよう
「私は半音運指が苦手だから、全てハ長調に移調しないとダメ!」などと拘わっていては、演奏可能な曲が限られてしまいます。

例えば、下のように音域が2オクターブに亘る変ホ長調の曲をハ長調に移調した場合、低い側に移調すると最低のドより低くなる音符が出てきます。一方、1オクターブ高い側に移調すると、今度は大甲音の領域に入ってしまい、演奏が苦しく聴きづらい高音側に偏ってしまいます。

ハ長調移調

このような場合は、下のようにヘ長調に移調すれば、♭は1つ付きますが、演奏しやすくて程よい音域での演奏が可能となります。

ヘ長調移調

さらに、ポップス系の曲では楽譜の途中に臨時半音記号が登場することもしばしばありますので、篠笛演奏者にとって半音運指のマスターは避けては通れないということになります。
かといって、半音記号が多くなると速いパッセージの曲では安定した音程で演奏するのが難しくなりますので、通常はヘ長調(♭1つ)とト長調(♯1つ)ぐらいを最低限マスターしておけば、大抵の曲はカバーできると思います。
  • カラオケに合わせて演奏する方法
篠笛をカラオケに合わせて演奏したい場合、「この曲を演奏するには何本調子が必要ですか?」といった質問をされる人が時々いますが、そのような心配は全く不要です。カラオケマシーンは、key調節機能の[+]、[-]操作(トランスポーズ)により、任意のkeyに容易に調整することが可能ですので、どの調子の篠笛であっても合わせることができます。
以下では、自分が持っている調子にカラオケのkeyを合わせる手順について説明します。

【手順1】篠笛で演奏し易い調に移調する。
演奏したい曲のオリジナルの楽譜では半音記号が多い場合(又は篠笛音域を外れる場合)、まず前述した方法により篠笛で演奏し易い調(ハ長調やヘ長調等)に移調します。

【手順2】移調後の伴奏に合うベースの調子を求める。
下表により、オリジナルkeyの伴奏に合うベースの調子を求めます。
例えば、【♭5つ→♭1つ】に移調した場合、オリジナルkeyに合うのは四本調子の笛となります。

移調後篠笛調子

【手順3】自分が持っている笛の調子に合うようにカラオケのkeyを調整する。
手順2の表から求めたベースの調子と、自分が持っている篠笛の調子が異なる場合は、カラオケマシーンの[+]、[-]操作により、手持ちの調子に合うkeyに調整します。
上の例では、本来なら四本調子が合うはずですが、手元に六本調子しか持っていない場合、そのままでは本来のkeyより半音2つ分高くなってしまいます。この場合は、↓の図のようにカラオケマシーンのkeyを2つ上げることにより、六本調子の演奏に伴奏を合わせることができるようになります。

篠笛調子合せ

なお、市販の篠笛譜を用いる場合は、その曲のオリジナルkey(Before)は何調か、ネット等で予め確認しておく必要があります。篠笛譜は、篠笛で演奏し易いように移調された後(After)の調になっている場合がありますので、それを基準に設定してしまうとオリジナルkeyを基準としているカラオケと合わなくなってしまいます。

以上、述べてきた移調や調子合せの手順をそのまま適用すると、かなり面倒な作業となることから、これらを自動で計算してくれるエクセルを作成しましたので、下のページからダウンロードして活用してみてください。
【篠笛の自動移調Excel】

  • 八本調子より高い調子の場合
前述の表によると、例えばニ長調(Dmaj)の曲は十本調子の笛が最も演奏し易いことになります。しかし、十本調子の笛はかなり音域が高く、笛も小さくなって吹き難くなります。祭囃子を演奏するのであれば音域的に問題ないと思いますが、しっとりした曲を演奏するには、十本調子は甲高くなり過ぎて敬遠する人もいます。かといって、1オクターブ低い笛となると、最も低音の一本調子でも基音がFなので、D音に相当する低音篠笛があるとすれば、下の表のように「マイナス2本調子篠笛」になってしまいます。 

篠笛低音管

普通はこのような低音の篠笛はありませんが、世の中にはLOW-D管のバンブーフルートというものが存在します(下の写真の三番目の笛)。運指的にも、「マイナス2本調子」の6孔篠笛と同じものと考えることができます。  このLOW-D管は、バロック時代のフルートである、フラウト・トラヴェルソと同じ音域、運指となります(現在のコンサートフルートは「マイナス4本調子(LOW-C管)」に相当します)。下の写真の一番下が八本調子の篠笛で、下から四番目がLOW-C管で1オクターブ低い管となります。


低音域の篠笛として、これらを手にしてみるのも、篠笛の演奏の幅を拡げる手段の一つと考えることもできます。ただし、手の小さい人は最初は指押さえに苦労されるかもしれません。  
大きい笛の指穴を塞ぐコツは、下のページの「脱力」についての説明をご参照ください。
篠笛の上達法

  • 曲の途中で転調がある場合
下の楽譜はアメイジング・グレイスの一部です。途中まではト長調(Gmaj)の運指で調子よく演奏できますが、突然変イ長調(A♭maj)に転調しています。♭が4つも出てきて、「うわっ、これは篠笛では無理~!」とあきらめてしまいそうです。

アメイジング・グレイス転調

しかし、移調グラフを見ると、A♭majはGmajより半音高いだけの調です。つまり、この転調はkeyを1半音分だけ高くして冒頭からのフレーズを繰り返しているに過ぎません。
このため、この転調部分から、調子が一本分だけ高い(長さの短い)笛に素早く持ち替えて、ト長調(Gmaj)のまま最初のフレーズの運指を繰り返して演奏すれば、聴き手には転調したように聞こえることになります(持ち替えるのに、もたもたすると悲惨ですけど…)。 

アメイジング・グレイス篠笛持替え

  • 伴奏を付ける際、篠笛の調子に合うよう移調したい場合
例えば、六本調子で下のハ長調楽譜(相対音高)を篠笛運指で演奏すると、実際に鳴る絶対音程(アウトプット)は変ロ長調(B♭maj)となりますが、ピアノ伴奏を変ロ長調楽譜に移調して演奏してもらえば簡単に合わせることができます。篠笛奏者はハ長調楽譜(パート譜)、ピアノ奏者は変ロ長調楽譜(伴奏譜)と、調が異なる二種類の楽譜を用いる必要が生じますが、ピアノ奏者にとっては変ロ長調の演奏など容易いことです。一方、オリジナルkeyが変ロ長調の曲の場合は、ピアノ伴奏譜はそのままで六本調子篠笛をハ長調に移調すればよく、八本調子よりもずっと楽になります。
また、MIDI伴奏の場合なら、更に簡単にトランスポーズすることができます。

篠笛ピアノ伴奏

  • 「移動ド」記法による移調
移調楽器である篠笛では、下の図のように曲の調によって絶対音高五線譜上の「ド」(篠笛の数字譜の「一」)の位置を移動して読む「移動ド」を用いるのが基本です。ただし、篠笛では相対音高の移調譜を使用しますので、どの調子であっても同じ譜読みとなります。
 
篠笛移動ド

これにより、どの調の曲であっても、篠笛の指孔配置と同じ「全音、全音、半音、全音、全音、全音」の並びに合わせることができるので、半音記号の多い調の曲であってもハ長調の基本運指でドレミが演奏可能となります。

篠笛指穴配列

五線譜の音符ではなく、数字譜あるいはカタカナの「ドレミ…」で譜読みをしている人なら、わざわざ移調した五線譜を作らなくとも、元の五線譜の下に、移動後の「ドレミ…」又は「一、二、三…」を書き込んでいけば簡単に移調できます。最初から数字譜で覚えている人は、この方法で演奏している方が多いようです。

篠笛の数字譜で譜読みをしている人の移調については、↓のページに詳しく解説しています。
 【五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法】

同じ曲をいろいろ移調して演奏してみると飽きることがなく、篠笛演奏の幅が拡がってとても楽しいものです。上で紹介した(篠笛の自動移調Excel)や楽譜作成アプリを使えば簡単に移調できますので、いろいろな曲を移調して楽しみましょう。

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① 篠笛の選び方と使い分け【その1】
② 篠笛の選び方と使い分け【その2】
④ 五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法
⑤ 篠笛演奏における息コントロールと音質に関する考察
⑥ 篠笛の上達法
〇 篠笛の自動移調Excel

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