|
しかし、諦めることはありません。以下で解説する移調を行うことで、篠笛で演奏し易い音域でかつ半音記号が少ない楽譜に変換することができるのです。この移調を自由に駆使することができるようなれば、篠笛演奏の幅が大幅に拡がって楽しみも倍増します。 篠笛演奏では、主に以下の場面において移調を行う必要があります。 ・♯、♭の半音記号が多い調の曲を、篠笛で演奏し易いように半音が少ない調に変えたい場合。 ・曲全体の音域が、篠笛の音域よりも高めあるいは低めのため、篠笛で演奏し易い音域にシフトしたい場合。 ・伴奏を付ける際、手持ちの篠笛の調子の音程に合うように伴奏側を移調したい場合。 ・曲の途中で転調があって、笛を持ち替えるだけで運指はそのままとしたい場合。 ・曲想に合った運指に変えたい場合。 以下では、唄用(ドレミ調)篠笛で様々な曲を自由自在に演奏するために不可欠な移調の方法について、音楽知識のない人でも理解できるよう、丁寧に解説していきます。また、カラオケ伴奏に合わせる方法や、自動移調してくれるエクセルの紹介もしています。 篠笛愛好家にとって残念なことは、楽譜市場においてJ-POPの篠笛譜というものがほとんど流通していないことです。このため、メロディ譜やピアノ譜等を入手して、それを篠笛で演奏し易いように移調して演奏することが一般的に行われています。 移調作業と聞いて、音楽知識がない者では難しいのではないかと思われる人もいるかもしれません。しかし、楽譜作成ソフト(muse score 等)を使えば簡単に任意の調に変換できますし、自動移調してくれるエクセル(篠笛の自動移調Excel)も作成していますので、これらを有効に活用すれば、音楽知識がない人でもそれほど困難な作業ではありません。 ここで解説する移調方法は、フルート等の西洋楽器経験者が篠笛を始めた場合のように、五線譜のまま読譜される人を前提としています。篠笛の数字譜(一、二、三…)で読譜される人の移調については、↓のページを参照ください。 【五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法】
例えば、下の楽譜(アルルの女メヌエット)を例に説明します。この楽譜ではE♭maj(変ホ長調)のため、♭が3つもあるうえ、16分音符中にも頻繁に半音が登場するので、このままでは、篠笛での演奏は難しそうです。 このような場合、移調楽器である篠笛ではドレミの位置を上下にずらすことにより、半音記号が少ない調に移調して譜面を読む、いわゆる「移動ド」による演奏が一般的です。 半音記号が少ない調に移調するには、次の移調時計を用いると便利です。
【Before】 上の移調時計で♭3つ(E♭maj)から♭1つ(Fmaj)に減らすには、E♭(3時)→ F(5時)まで2時間進め(半音2つ分高くす)ることにより、半音記号が1つの調に移調することができます。これなら、篠笛でも演奏できそうです。 【After】
移調楽器である篠笛では、こういう場合、一本調子~十二本調子のいずれかに持ち替えることにより、任意のkeyに合わせることになります。下の図は、各調を半音記号がないハ長調に移調した場合に「ド」の高さの音がどのように変化するかを示したものです。例えば、ホ長調(Emaj-♯4つ)をハ長調に移調すると、全体のkeyが4つ低くなりますので、元の音高に戻すためにはkeyが4つ高い(8+4=)12本調子の笛に持ち替えればよいということになります。 しかし、これではあらゆる調を演奏可能としようとすると、12本の調子すべてを揃えなければならなくなってしまい現実的ではありません。そうなるのは、半音記号がゼロのハ長調(イ短調)楽譜の演奏にこだわるからです。普通の篠笛愛好者であれば、半音記号の1つや2つぐらいは許容できるようにならないと、自在な篠笛演奏はできません。特に左手人差指1つ(又は0ポジション)だけ半音を使うFmaj(ヘ長調)は、篠笛譜では頻繁に登場しますので必須テクニックです。 下の表は、F maj(♭1つ)とG maj(♯1つ)で使う半音運指をマスターした場合において、移調後の西洋楽器に合う調子を示したものです。これを見ると、黄色枠で示している一般的に普及している5種類(四~八本調子)の調子だけ揃えれば、すべての調の(伴奏に合わせた)演奏が可能となることが分かります。例えば上の「アルルの女メヌエット」の移調の例では、E♭majから F maj(ヘ長調)に移調していますので、六本調子の篠笛に持ち替えることで、元の高さを維持することができ、ピアノ等に合わせることが可能となるのがこの表から分かります。これより、白枠のレアな調子の篠笛を揃える必要などないことが理解できるでしょう。 更に、B♭maj(♭2つ)とD maj(♯2つ)の半音運指までマスターできれば、ずっと適用範囲が拡がります。下の表の例は、最も普及している六本調子、七本調子、八本調子の三本だけを揃えた場合の例ですが、半音記号を2つまで許容することにより、すべての調をカバーできることが分かります。 今お手持ちの笛がこれと異なる調子の場合でも、異なる3種類の組み合わせでカバーすることが可能です。 印刷用の調子対応表はこちらから
しかし、そこまでして西洋楽器と合わせたいのであれば、半音キーが付いているフルートやピッコロを使えばよい話であって、趣味で篠笛ソロ演奏だけをやる人なら、上記のような使い分けなどまったく不要で、自分の好きな調子の笛1本だけあれば、何の支障もなく演奏を楽しむことができます。
例えば、下のように音域が2オクターブに亘る変ホ長調の曲をハ長調に移調した場合、低い側に移調すると最低のドより低くなる音符が出てきます。一方、1オクターブ高い側に移調すると、今度は大甲音の領域に入ってしまい、演奏が苦しく聴きづらい高音側に偏ってしまいます。 このような場合は、下のようにヘ長調に移調すれば、♭は1つ付きますが、演奏しやすくて程よい音域での演奏が可能となります。 さらに、ポップス系の曲では楽譜の途中に臨時半音記号が登場することもしばしばありますので、篠笛演奏者にとって半音運指のマスターは避けては通れないということになります。 かといって、半音記号が多くなると速いパッセージの曲では安定した音程で演奏するのが難しくなりますので、通常はヘ長調(♭1つ)とト長調(♯1つ)ぐらいを最低限マスターしておけば、大抵の曲はカバーできると思います。
以下では、自分が持っている調子にカラオケのkeyを合わせる手順について説明します。 【手順1】篠笛で演奏し易い調に移調する。 演奏したい曲のオリジナルの楽譜では半音記号が多い場合(又は篠笛音域を外れる場合)、まず前述した方法により篠笛で演奏し易い調(ハ長調やヘ長調等)に移調します。 【手順2】移調後の伴奏に合うベースの調子を求める。 下表により、オリジナルkeyの伴奏に合うベースの調子を求めます。 例えば、【♭5つ→♭1つ】に移調した場合、オリジナルkeyに合うのは四本調子の笛となります。 【手順3】自分が持っている笛の調子に合うようにカラオケのkeyを調整する。 手順2の表から求めたベースの調子と、自分が持っている篠笛の調子が異なる場合は、カラオケマシーンの[+]、[-]操作により、手持ちの調子に合うkeyに調整します。 上の例では、本来なら四本調子が合うはずですが、手元に六本調子しか持っていない場合、そのままでは本来のkeyより半音2つ分高くなってしまいます。この場合は、↓の図のようにカラオケマシーンのkeyを2つ上げることにより、六本調子の演奏に伴奏を合わせることができるようになります。 なお、市販の篠笛譜を用いる場合は、その曲のオリジナルkey(Before)は何調か、ネット等で予め確認しておく必要があります。篠笛譜は、篠笛で演奏し易いように移調された後(After)の調になっている場合がありますので、それを基準に設定してしまうとオリジナルkeyを基準としているカラオケと合わなくなってしまいます。 以上、述べてきた移調や調子合せの手順をそのまま適用すると、かなり面倒な作業となることから、これらを自動で計算してくれるエクセルを作成しましたので、下のページからダウンロードして活用してみてください。 【篠笛の自動移調Excel】
普通はこのような低音の篠笛はありませんが、世の中にはLOW-D管のバンブーフルートというものが存在します(下の写真の三番目の笛)。運指的にも、「マイナス2本調子」の6孔篠笛と同じものと考えることができます。 このLOW-D管は、バロック時代のフルートである、フラウト・トラヴェルソと同じ音域、運指となります(現在のコンサートフルートは「マイナス4本調子(LOW-C管)」に相当します)。下の写真の一番下が八本調子の篠笛で、下から四番目がLOW-C管で1オクターブ低い管となります。 低音域の篠笛として、これらを手にしてみるのも、篠笛の演奏の幅を拡げる手段の一つと考えることもできます。ただし、手の小さい人は最初は指押さえに苦労されるかもしれません。 大きい笛の指穴を塞ぐコツは、下のページの「脱力」についての説明をご参照ください。 篠笛の上達法
しかし、移調グラフを見ると、A♭majはGmajより半音高いだけの調です。つまり、この転調はkeyを1半音分だけ高くして冒頭からのフレーズを繰り返しているに過ぎません。 このため、この転調部分から、調子が一本分だけ高い(長さの短い)笛に素早く持ち替えて、ト長調(Gmaj)のまま最初のフレーズの運指を繰り返して演奏すれば、聴き手には転調したように聞こえることになります(持ち替えるのに、もたもたすると悲惨ですけど…)。
また、MIDI伴奏の場合なら、更に簡単にトランスポーズすることができます。
これにより、どの調の曲であっても、篠笛の指孔配置と同じ「全音、全音、半音、全音、全音、全音」の並びに合わせることができるので、半音記号の多い調の曲であってもハ長調の基本運指でドレミが演奏可能となります。 五線譜の音符ではなく、数字譜あるいはカタカナの「ドレミ…」で譜読みをしている人なら、わざわざ移調した五線譜を作らなくとも、元の五線譜の下に、移動後の「ドレミ…」又は「一、二、三…」を書き込んでいけば簡単に移調できます。最初から数字譜で覚えている人は、この方法で演奏している方が多いようです。 篠笛の数字譜で譜読みをしている人の移調については、↓のページに詳しく解説しています。 【五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法】 同じ曲をいろいろ移調して演奏してみると飽きることがなく、篠笛演奏の幅が拡がってとても楽しいものです。上で紹介した(篠笛の自動移調Excel)や楽譜作成アプリを使えば簡単に移調できますので、いろいろな曲を移調して楽しみましょう。 |
① 篠笛の選び方と使い分け【その1】 ② 篠笛の選び方と使い分け【その2】 ④ 五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法 ⑤ 篠笛演奏における息コントロールと音質に関する考察 ⑥ 篠笛の上達法 〇 篠笛の自動移調Excel |