篠笛 篠笛の選び方と使い分け 

篠笛の選び方と使い分け(1)   篠笛演奏における移調   五線譜から数字譜起しする方法   篠笛演奏での息コントロール   篠笛の上達方法


篠笛の選び方と使い分け【その2】

 篠笛の選び方と使い分け【その1】の続きです。 

  • 篠笛の材質による違い
Q.篠笛には、プラスチック製や竹製のものがありますが、初心者はどれを選べばいいのでしょうか? 
  • プラスチック製の笛

プラスチック製の篠笛は、竹製に比べてかなり安価なこととその見た目から、価格相応な安っぽい音しか出せないだろうというイメージを持たれている人が多いようです。しかし、管楽器としての材質の良否に関しては、素材の値段との相関関係はほとんどないといわれており、プラスチックという材質は、篠笛としての素材として決して劣っていることはありません。ゴールド製のフルートが高価なのは、単に素材に高価な貴金属である金を使用しているからに過ぎず、楽器の素材としての特性が価格相当に突出して優れているからではありません。

管楽器のクオリティは、材質よりも歌口の形状や指穴のピッチ精度が正確に調整されている等の加工技術の要素に大きく支配されるといえます。その観点でいえば、プラスチック製の篠笛は優れた笛の型どおりに正確に作られており、内径・指孔位置、孔径の精度がバッチリで素材密度も均質ですので、下手に作られた竹製より高品質な場合もあります。素人が作った竹笛の中には、音が裏返りやすい等の出来損ないの代物もありますが、プラスチック製篠笛ではそのような心配はありません。楽器としての性能面だけでいえばプラスチック製篠笛のコスパは群を抜いて優秀で、アマチュアが趣味で篠笛演奏するには、ある意味これ1本で十分足りるという考えも有りかもしれません(後述する楽器性能以外の魅力を度外視すれば)。

最悪なパターンは、初心者が、素人の作った癖のある竹製篠笛を用いて練習する場合です。癖のある笛を吹き続けていると、不自然な吹き方をする癖が身に付いてしまい、取り返しがつかなくなってしまう恐れがあります。うまく鳴らない原因が、自分の技量が低いためなのか、あるいは笛自体が悪いからなのかを初心者自身で判別するのは困難です。このように楽器に対して疑心暗鬼な状態では、練習のモチベーションが上がるはずもありません。その点、品質が安定しているプラスチック製メーカ品であれば、楽器が悪いという言い訳は通用しないので、安心して自分の技量のレベルを把握しながら練習に打ち込むことができます。初心者は、ある程度のレベルに達するまでは、品質が保証されていて、甲音が出し易いプラスチック製篠笛で練習されることをお薦めします。 ネット通販を利用する場合でも、プラスチック製であれば品質に係るリスクの観点からも安心です。
なお、上の写真のように、メーカーによって各指穴の大きさの差の付け方に若干の差異が見られます。これは、長唄や民謡指向の調律か、西洋音階指向の調律かといった違いによるものです。これら調律傾向の特徴は、各メーカーが前提としている音楽ジャンルの相違によるものであり、決して調律の優劣によるものではありません。ただし、これらの調律の違いはメリ・カリで調整可能な範囲であり、神経質に考えるほどの差ではありませんので、自分の演奏ジャンルの観点からの選択要素の一つ程度に考えればよいと思います(【その1】の唄用、ドレミ調の解説を参照ください)。

プラスチック製篠笛の欠点としては、八本調子、七本調子(一部六本調子有り)の限られた種類しか揃っていないことと、大量生産のため歌口の仕上げが金型プレス成型段階で留まっており、職人の耳と手仕上げによる最終音造り工程を経ていない甘さがあることが挙げられます(初心者の鳴らし方では全く気にする必要はありません)。こだわる人は半丸ヤスリ等で調整(あくまでも自己責任の上で)することも可能ですが、初心者は下手に手を加えない方が無難かと思います。ただし、一部メーカの製品には下図に示すように歌口や指穴の内面側にバリが残っている場合があり、空気流の乱れにより滑らかなエアーリード形成に影響する可能性も考えられます。目立つようであれば、半丸ヤスリ等でバリ取り(アンダーカット)することにより、音が丸くなり安定化することが期待できるかもしれません。

バリ
 
  • 竹製の笛

篠笛という名称の由来は「篠竹(女竹)で作られた笛」であるということから、やはり篠竹製こそ本物の篠笛であるという認識を持たれている人が多いのも理解できます。奈良時代から雅楽で用いられている龍笛も(頭管部には真竹が用いられていますが)、笛筒本体は篠竹が用いられています。これは、長い横笛の歴史において、数ある竹種の中で篠竹が最も笛筒の素材として適していることが経験的に裏付けられていることの証といえます。日本で生息する篠竹は、均整の取れた上品な美しさを有しており、まさに笛になるために生まれてきたような、世界に誇れる最適な笛材であると思います。
しかし、篠竹は天然素材であることから、外観は同じように見えても、一本一本均質なものはなく、太さや、厚さ、密度などが異なる上、笛師による加工のバラツキがあるため、作りが悪い竹製の篠笛はプラスチック製の篠笛より劣る場合もあります。外観上は何の傷も無い笛であっても、竹の繊維や密度の不均一などが原因なのか、どうしても鳴りの悪い物が出来ることがあります。竹笛は、竹材の産地、年齢、伐採時期、乾燥養生等によって鳴りの良し悪しが決定付けられてしまうというデリケートな性質がありますが、これは見た目では判別不可能です。同じブランド銘の笛でも、筒音や大甲音にはどうしても鳴り易さにバラツキが生じます。このため、吹き比べをして最も鳴りが良いものを購入するのが望ましいといえます。

 【竹の素材によるバラツキ】
  ・竹の太さ、肉厚、テーパ角度、密度や硬さ(竹の産地、伐採時期、乾燥養生の具合等によって相違) 等
 【加工によるバラツキ】
  ・歌口の寸法形状、反射壁の位置、エッジ角度、滑らかさ、指穴のピッチ・径等の加工精度

竹製の笛を選ぶのであれば、安物には手を出さない方がよいでしょう。篠竹は一本一本内径が異なりますので、単純に同じ寸法で加工しただけではピッチがばらついてしまいます。良い笛とは、厳選された竹材を一品一品チューナーによってピッチを確認しつつ指孔位置や孔径を微調整するとともに、最も重要な歌口のエッジ部は、職人の耳で確認しながらの繊細な仕上げ加工による音造り工程を経て完成されるものです。このような品質が保証された篠笛は、多くの手間を経て製作・調整されたものであり、それに要した職人の人件費を考えると、それ相応の価格になるのは必然といえます。篠笛の価格については後半で詳しく考察しています。

楽器としてのコストパフォーマンスだけで比較するとプラスチック製篠笛の方が断然優位といえますが、腕時計を時計精度だけで選択しないのと同じように、工芸品としての均整の取れた美しさがあって愛着が持てる魅力を有していることも大切な選択要素です。竹製篠笛は、後述するように取り扱いに十分注意しないと割れが入ったりすることがありますが、大切に扱いさえすれば何十年でも鳴らし続けることが可能です。私は40年近く愛用している獅子舞用の竹製神楽笛がありますが、全く劣化は見られません。むしろ、使い込むほどに味わいのある光沢を帯びて、その使い込んだ美しさがなんともいえない魅力となります。たかが竹笛に数万円も費やすのは躊躇すると思われている人がいるのも理解できますが、私のように一生の愛用品として使い続けると考えれば、安い趣味への投資だと思います。竹製篠笛は素材によるバラツキが大きいという欠点がある一方、それが笛の個性となって「世界に一つだけの笛」としての愛着を持つことができます。

このように、あるレベル以上の経験者になると、一生の伴侶として愛用し続ける竹製篠笛を持ちたいと思うようになります。真に良い笛か否かを見定める技量が身に付いた段階で、世界に一つだけの自分に最も合った竹製篠笛を手に入れられるのがよいかと思います。

  • 男竹製の笛

一本調子~三本調子のような長管になると、節間隔が長く太い竹が必要となりますが、このような女竹(篠竹)は日本ではあまり生えておらず、入手が難しくなります(質の悪い中国製の篠竹なら比較的入手し易いようですが)。このような長管には、径が太く節を抜きやすい真竹や淡竹のような男竹が使用されることがあります。この真竹で作られる横笛は、真笛(まこぶえ)とも呼ばれています。真竹や淡竹は、日本の何処にでも生えており、ホームセンターでも安価に入手できますが、節を抜く手間がかかるので篠笛に比べ相対的に価格は高めになる傾向にあります。
篠笛の柔らかく女性らしい響きに対し、真笛は筒の間に節があって剛性が高くなるせいか、男らしいカッチリとした力強い吹奏感が特徴です。後述する吹き手側の骨伝導としての感想ですが、プラスチック製篠笛に近い吹奏感があります。そのレスポンスが気持ちいいと好まれる人もいて、屋外で大きい音で聴かせたいときや、洋風の曲には向いているという人もいます。半面、吹奏感としては篠笛独特の繊細な上品さに欠けるように感じられます。私は、男竹は竹箒のような粗野な材料のイメージが強く、繊細な笛材には似合わないように思います。

中間部分に節がある竹笛はどうしても不格好になってしまうため、世界的に見ても中国の笛子の一部に見られる程度で、あまり例がありません。篠笛や龍笛、能管は工芸品として非常に均整の取れた世界に誇れる美しい笛だといえますが、この真笛の不格好な外観は、長く受け継がれる笛とは到底思えません。真竹が似合うのは尺八だけであり、いくら近年日本製の良質の篠竹が入手しにくくなっているとはいえ、容易に入手できる真竹製の真笛を安易に製作する工房が増えている傾向はあまり好ましい姿とはいえないように私は感じています。

  • 木製の笛

なぜ日本の横笛は古来より竹製だったのかというと、筒形状への加工という最も難しい工程が不要だったためと考えられます。現在は容易に筒形状に加工できる工作機械があるため、木製篠笛も徐々に作られるようになってきています。木製の笛は、寸法のバラツキが少なく、自然素材による味わいを有している上、割れの心配も少ないという、プラスチック製と竹製の両方の長所を兼ね備えているという特徴があります。後述するように、筒の材質の違いが聴き手に与える影響は小さいことを考えると、これからは、もっと木製篠笛に目が向けられてもいいのではないかと思います。ただし、高い加工技術が必要となるので、きちんと製作された物なら価格は相対的に高くなります。

  • 竹製篠笛の管理
竹製の篠笛は、十分注意して取り扱わないと割れてしまうことがあります。大切にしていた笛でも、一旦割れが入ってしまったらおしまいです。割れが入った古い笛を修理したものがオークションで出たりすることもありますが、元はどんなに名笛であっても、一旦割れが入った筒は縦方向に不連続な断層が形成されてしまっており、綺麗に共鳴する筒構造物ではなくなっていますので、割れのない新品の笛とは同列に扱えない欠陥品に分類されるものです。
陶器は衝撃を与えなければ割れることはありませんが、竹製篠笛は、何の手入れもせずに長年放置しているだけで割れが入ることもありますので、陶器よりもデリケートなものという認識を持つ必要があります。一方、大切に取扱いさえすれば、何十年でもほとんど劣化せずに使えるというのも竹製の笛の特徴です。

竹笛の取り扱いで、特に注意すべき事項を列挙すると、以下となります。
 ・衝撃を避ける。
  ⇒高い棚などに置かない(落下の危険)。乱暴に扱わず、ガラス製品のように大切に扱う。
 ・高温、乾燥を避ける。
  ⇒竹だけでなく、内面漆塗も過乾燥や紫外線に弱いため、直射日光を避ける。炎天下の車中に放置するなどは厳禁。保湿のため袋に入れて保管。日々吹き込んでいれば、適度な湿り気が維持できます。
 ・定期的に油で拭く
  ⇒オリーブオイル、椿油、クルミ油等を常備し、適度な潤いを保つ。
 ・急激な温度・湿度変化を避ける
  ⇒保管や衝撃に注意していても、吹き始めの熱応力により割れが生じることもありますので注意が必要です。

補足しますと、分厚いガラス容器に、いきなり熱湯を入れると割れることがありますよね。これは熱応力といって、先に内面だけが高温になり膨張するのに対し、まだ低温状態にある表面には引っ張り応力が加わることにより、ガラスが抗しきれずに割れる現象です。竹笛の場合についても、笛が冷えた状態でいきなり高温多湿の息を内面に吹きかけると、笛の内面だけが温度上昇と吸湿によって先に膨張して、まだ膨張についていってない外面に割れが入ることがあります。冬季の笛の吹き始めは、いきなり連続演奏に入るのではなく、笛全体が徐々に温まるよう慣らし吹きするように心がけましょう。

  • 笛の材質が音色に与える影響
ヴァイオリンなどの弦楽器は、弦の振動を薄い板のボディに直接伝えて楽器全体が発音体(スピーカーのコーンの役目)となって共鳴するため、音色はボディの材質に大きく依存します。また、奏者が弾き終えた直後の残響も、ボディの材質の影響を受けます。
一方、管楽器は厚い剛構造の管体部分はほとんど振動せず、葦等で作られた薄く柔かいリードの振動が支配的な発音体となっています。なかでも篠笛のようなエアリード楽器においては、下図のように奏者の呼気によって形成されるエアリードの振動から発する音が主な発音原理となっています。

エアーリード振動

このように、篠笛のようなエアーリード楽器は、歌口で形成されるエアリード部及び指孔から直接放射される空気振動による発音成分がほとんどを占めるのに対して、剛構造の筒部は前述したように共鳴柱の長さ(音高)を形成させる役目に過ぎないため、管壁部から放射される音は歌口部に比べ微々たる割合しかないという測定結果が得られています。また、横笛は倍音成分の割合が小さい楽器であるため、音質を左右する倍音に対する材質の影響も相対的に小さくなると考えられます。音響学的見地としては、音質に与える影響はエアーリードの出来と音響空間(エコー等)が支配的であり、「…このようなことから、木管楽器では、管の形こそ大切だが、材質が音に与える影響はそれほど大きくないものと考えられる。(橋本 尚先生著「楽器の科学」より)」とされています。

篠笛音放射

そうはいっても、材質の異なる笛を吹き比べた経験のある人は、筒の材質の違いにより音色がかなり違うように感じられたことがあると思います。これは、主に奏者の骨伝導による効果と考えられ、聴き手には感じられない差です。
骨伝導とは、筒の振動が下顎や指の骨を介して直接内耳に到達して聞こえる音のことで、普段感じている自分の声も同じ骨伝導によるものです。一方、録音した自分の声は空気伝導によるもので、「私ってこんな変な声だったのかしら。」と違和感を感じた経験をお持ちの人もいらっしゃると思います。この録音した空気伝導による音こそ、奏者が実際に鳴らしている本当の笛の音なのです。このように、笛奏者が感じる笛の響きと、聴き手が感じる笛の響きはかなり異なります。
前者の、奏者が感じる笛の音質の違いの特徴としては、笛胴体の剛性に大きく影響を受けるということです。笛の剛性が低い(肉厚が薄く密度が低い)竹の場合は柔らかくまろやかな響き、剛性が高い(肉厚が厚く密度が高い)竹の場合は締まったシャープな響きとして、骨伝導を介して感じることができます。

骨伝導

その他、奏者だけが感じる笛の個体差としては、レスポンスの速さや発音効率、吐息の抵抗感等の吹奏感の違いがあり、骨伝導と相まって笛の音質の違いとして敏感に感じ取ることができます。一方、空気伝導しか伝わらない聴き手側にはそれらの違いはほとんど感じられず、材質の違いによるブラインドテストでは、ほとんど聴き分けることができないという結果となっているそうです。

木琴と鉄琴とでは全く異なった音を発するように、打楽器の場合は胴体の材質等に依存する固有振動特性によって音質が決まってしまいます。同様に、笛の胴体を打楽器のように棒で叩いた音(このような振動特性をインパルス応答特性という。)も、材質等の固有振動特性によってかなり差が現れます。しかし、木管楽器本来の吹奏法によって励振される空気振動は、上述したエアーリード振動成分に支配されることから、胴体の材質の影響を大きく受けるインパルス応答特性にはほとんど関係しません。
分かり易い例として、下の写真のようなクリスタルフルートというガラス製の筒に指穴6つを開けただけのシンプルな横笛があります。この胴体を叩いた時のインパルス応答は「カーン」というガラス特有の甲高い音がすることから、さすがに吹奏音も竹製の笛とは異なる音色で鳴るのではと思われがちです。しかし、このクリスタルフルートを篠笛と同じ奏法で演奏し録音して聴いてみると、篠笛に非常に近い音色に聞こえるのです。竹製篠笛よりも若干音がクリアな感じもありますが、これは歌口のエッジ部分が竹笛よりも滑らかであることが主要因であって、材質の影響はほとんどないと考えられます。


以上述べたように、材質そのものによる笛の音質(空気振動)への直接的な影響は小さいといえますが、奏者の感じる吹き心地やレスポンスは材質に大きく左右されます。すなわち、吹き易い材質の笛ほど演奏の裕度を高め、美しい音色を鳴らす演奏技量が発揮し易くなる観点から、間接的には材質による音質への影響は小さくないといえます。すなわち、吹き手側が感じる「鳴り」や「吹奏感」は材質の影響を大きく受けるのに対し、聴き手側が感じる「音色」は材質による直接的な影響はほとんどなく、演奏する環境の音響効果(エコー等)の方が支配的になると考えられます。

管楽器の材質が音質に与える影響に関して諸説紛々あるのは、以上のように聴き手側が感じる音色と、吹き手側が感じる吹奏感や鳴りの感触とが混同されて議論されているのが主な要因と思われます。竹製の篠笛の方が音質が良いという主張は、吹き手側の立場に立った吹奏感の心地良さのことをいっているのだと解釈すれば納得できます。
オーケストラ演奏においても、フルートパートがそれぞれ金製、銀製、木製と、すべての奏者が異なる材質のフルートを使用しているのを見かけることがありますが、演奏を聴くと3者の音が完全に溶け込んでおり、指揮者もその材質の違いを気にすることはありません。このレベルでの材質の違いは優劣というよりも好みの問題だと思います。素人があれこれいうよりも、元NHK交響楽団フルート奏者で音楽大学で指導をされている細川順三先生の著書で述べられている、「フルートは弦楽器などと違って発音時の楽器への共鳴はわずかで、管体の材質による音色の差は案外小さく、聴く人が材質を正確にいい当てることはほとんど不可能なほどです。(中略)実際には材質よりも、歌口やプレートの形、そして何より奏者の奏法や個性による音色の違いのほうがはるかに大きいと、ぼくは考えています(「絶対うまくなるフルート100のコツ」より)。」というのが最も的を射て、説得力のある結論だといえます。 

  • 笛の音質について
TVモニタの鮮明さや美しさの優劣は誰でも明確に見分けることができます。一方、楽器の音質の良し悪しの基準というのは、多分に主観的な要素が多く、ブランド銘等の先入観にも大きく影響されるようです。高級ワインの瓶の中身を、こっそり安物のワインに入れ替えたものを飲んでもらう実験をすると、大抵の人は「さすが高級ワインは違うね~」というそうです。このように味覚や聴覚というものは、視覚に比べて優劣を判別する能力が曖昧であるため、どうしても先入観に左右されてしまう傾向にあります。このため、安価なプラスチック製の篠笛の音質は、先入観だけで安っぽいと思い込んでいる人が多いように感じます。
普及品ヴァイオリンと数億円のストラディバリウスを聴き比べるテレビ番組がありますが、普及品ヴァイオリンであってもプロ奏者の手に掛かると見事に美しく奏でられてしまうので、よほど耳の肥えた人でない限り確信をもって違いを言い当てることができません。比較的楽器による音質の差が出やすいヴァイオリンでさえそうなのですから、楽器による音質の差が出にくい横笛の場合は、ほとんど奏者の技量で音質が決まってしまうといっても過言ではありません。
前述したように、篠笛は歌口で形成されるエアリード部から直接放射される空気振動による発音成分がほとんどを占めることから、このエアーリードの出来具合が、篠笛の音質を支配しているといえます。エアーリードの出来不出来は、後述するように歌口の形状に少なからず影響を受けますが、それにも増して奏者の技量に決定的に支配されます。いくら有名ブランド銘の最高級篠笛を用いても、奏者が造るエアーリードが粗悪品であれば、三流品の笛の音しか出せないということです。(篠笛演奏における息コントロールと音質に関する考察参照)。Youtubeを見ていると、自分がコレクションしている有名な銘の篠笛をドヤ顔で吹き比べしている愛好家の動画を見かけることがありますが、投稿者の意に反して、音質は笛には依存せず技量で決まることが如実に曝け出されてしまっています。

聴き手側では材質による音質の違いを判別するのは難しいと述べましたが、ワイン、骨董品等でも高級品と安物を見極めることができる真偽眼を有する人が数%存在するのと同様、笛の材質による微妙な音の違いを聴き分けられる人も確かにいます。また、歌口の加工精度が優れた笛ほど綺麗なエアーリードが形成しやすかったり、筒径が細い管ほど楽に甲音が鳴らしやすいため、綺麗な発音に影響するのも事実です。しかし、何度もいいますが、美しい篠笛の響きは、ほとんどが奏者の技量に支配されるものであり、素人がいくら著名な銘の刻印された高級煤竹製篠笛で演奏しても、名人が演奏するプラスチック製の篠笛の響きには到底及ばないということです。

篠笛の選び方

ちなみに、良い笛は1/f ゆらぎ特性を有しているといった誤解を持たれている人もいるようですが、人が心地よいと感じる1/f ゆらぎとは、メロディーラインや演奏表現の「ゆらぎ」といった、人が感じることができる長い周期(0.005Hz~5Hz程度)での音の強弱、音色、和音の変化等のことをいうのであって、単調に鳴らした音の振動(20~20KHz)を単なるフーリエ変換しただけの倍音成分のパワースペクトルが1/f特性を有しているということとは意味合いがまったく異なります。1/f ゆらぎ特性とは演奏によって左右されるものであって、笛自体が有している特性のことではありません。 

篠笛の音質に主に影響を与えるポイントについては、下のページで考察しています。
 【篠笛演奏における息コントロールと音質に関する考察】 

  • 笛の加工精度が音質に与える影響
篠笛のようなエアーリード楽器の発音源は、エアーリードの振動そのものであることから、綺麗な音を発するための最重要ファクターは理想的なエアーリード形成にあります。このエアーリードの出来不出来は、主に演奏者の技量に依存することになりますが、笛の良し悪しも綺麗なエアーリード形成のしやすさに間接的に影響しており、その中でも特に歌口の形状が決定的に重要な役目を担っています。下図に示す歌口の穴の大きさや、形、肉厚、エッジ部の面取量(ショルダーカット・アンダーカット)、断面角度、塗装による表面の滑らかさ等が、エアーリード形成を介して音の出やすさ(吹き始めの音の捉えやすさ)や音色に大きく影響することになります。

歌口断面

フルートなどは、リッププレートによって、のど厚を厚くすることにより、安定したクリアな音が出るようにされています。歌口の形状も、フルートのような小判形はクリアで澄んだ音、フラウト・トラヴェルソのような真円形では素朴な竹笛らしい音になる傾向があるように感じられます。篠笛はその中間の楕円形となっています。

歌口形状

また、音の抜けの良さ(音の明るさ・開放感)や迫力は、唄口や指穴の大きさ、管の太さ、筒のテーパ角度などに主に依存します(ただし、唄口の大きさや形状については、奏者の下唇による唄口の塞ぎ方によっても変化するファクタですので、単純に笛の造りだけでは論じることはできませんが)。このように、歌口エッジ部の加工精度が音質に与える影響は極めて大きく、笛職人の技の発揮どころといえます。
さらに、よい笛とは、レスポンス(吹き始めの音の捉え易さ)が良いことに加え、筒音から大甲音まで安定した音を鳴らせる(周波数特性がフラットでダイナミックレンジが広い)こと等が挙げられます。特にオクターブ比や大甲音の音程の安定性に関しては、下図に示す反射壁の影響も無視できず、歌口と反射壁の距離は、筒径や歌口の大きさに応じた最適値が定まるものと考えられます。しっかりした工房製のものなら永年の経験から最適な値に調整されていますが、素人作の笛では適切な位置から外れている可能性があります。これは外観だけでは判別しにくいファクタです。


音の芯がしっかりしつつ、抑揚のある豊かな表現力や篠笛独特の美しい余韻を残す演奏をするには、なめらかなクレッシェンド、ディミヌエンド等が安定してできる鳴り易い笛であることが望まれます。これらは上で述べたように、エアーリードの形成を左右する歌口エッジ部の加工精度、指孔位置の精度等の加工技術に主に依存するものですが、竹製の場合は素材の竹のバラツキの影響もかなり受けます。
更に、ドレミ調篠笛の場合はピッチが西洋音階の周波数に正確に調律されていることも必要条件となります。一方、唄用の篠笛の場合は、もともと民謡や長唄を前提とした調律で製作されたものですので、平均律音階からは若干ずれています。初心者の中には、短絡的に唄用篠笛も西洋音階の周波数のピッチに正確に調律されているものほど優秀な笛だと勘違いしている人がいるようですが、優劣の判断基準が間違っています。

  • 演奏環境や日々の変化による音質への影響
同じ笛でも、日によって鳴りに違いがあると感じることがあります。
この現象に影響する要因としては、
 ① 気温・湿度・気圧・空気流の変化
 ② 笛自体の温度による剛性の変化
 ③ 笛内面の吸湿(乾燥度)の変化
 ④ 音響状態(屋外、室内空間容積、エコーの程度等)の違い
 ⑤ 奏者の唇具合等の身体的影響
等が考えられます。特に、④の演奏する場所の音響効果が与える影響は非常に大きく、残響(エコー)が大きいホールと屋外とでは、全く異なった響きを感じることになります。

また、①について若干補足しますと、篠笛のような管楽器は、歌口とそこから最も近い開放指穴までの長さLに依存した共鳴振動数fの音を発します。波動における[ f =V/λ]の関係式において、気温による筒の長さの変化は無視できますので、下図(基本モード振動の例)で示される波長λは一定と近似できることから、共鳴振動数 f は音速Vに依存します。音波は気体分子の衝突によって伝播するため、音速Vは気体分子運動の速度に依存します。気温が高くなるほど空気分子の運動エネルギーが増加しますが、運動エネルギーは速度の2乗に比例することから、音速は絶対温度の平方根に比例(V∝√T)することになります。よって、振動の伝播速度である音速V並びに共鳴振動数 f が大きくなり、ピッチは高めになります。ここでいう音速は共鳴筒内の空気温度での値であり、演奏に伴い笛内面壁の温度が上昇すると空気温度も上昇しピッチが高くなります。 

共鳴振動

もっと長期の時間スパンでの音質変化を考えると、例えばヴァイオリンのようにボディの木材全体が共鳴して発音する楽器の場合は、エージング(馴染み)効果によって使い込むほど音がよく鳴るといわれています。また、塗料の乾燥や経年による硬度変化も影響しているともいわれています。
一方、篠笛のような管楽器ではこのような経年変化はほとんど無視できるといわれており、別のページ(篠笛演奏における息コントロールと音質に関する考察)にも述べているように、その笛の歌口、指穴径、肉厚による息の抵抗特性等に応じた最適な息コントロールができるかどうかで、ほぼ音質が決まってしまいます。前掲した細川先生の著書にも、「新しい楽器を手にした人が、吹き込むほど「鳴ってきた」と感じるのは、楽器がよい方向に変化してきたというより、奏者自身がその楽器に合った吹き方を見つけて慣れてきたからではないでしょうか。むしろ自分が変わってきているのですね。」とおっしゃっています。ただし、手入れを怠った笛が鳴りにくくなる要素は十分考えられますので、注意は必要です。 

  • 篠笛購入にあたっての留意点
  • 篠笛の価格について
プラスチック製篠笛の場合は、冒頭で述べたように楽器としてのコストパフォーマンスが高く、安価であっても品質上の心配はありません。一方、一口に竹製の笛といってもピンからキリまであり、中には観光地の土産物店などで千円以下で売られている竹笛なども存在しますが、これらは竹にドリルで穴を開けただけで何の調律もされていない代物ですので、楽器とはいえないオモチャに過ぎません。
一定水準以上の楽器としての性能を有し、正真正銘の篠笛と認められるものであれば、一品一品職人の手造りによって非常に多くの手間を掛けて製作され、厳しい品質チェックをクリアしたものであることから、人件費等を考えると1万円以上の価格にならざるを得ないはずです(逆にそれ以下の価格帯の竹笛は何らかの手間が省かれていると考えられます)。サイズの大きい低音管になると竹材が入手しにくくなるため、さらに高価となります。
このように、竹製の篠笛は、1万円台までは、楽器としてのクオリティと価格に相関関係があると考えて良いと思います。

篠笛価格クオリティ相関図

しかし、それを超える数万円の価格帯になると、上図のように高価なものほど優れた笛というような単純な関係にはなりません。低音から高音までバランスが保たれレスポンス良くよく鳴らせるといった、楽器としてのクオリティと価格との相関関係は薄れてきます。それよりも、塗装(本漆は高価、カシュー塗は安価)、巻きの数(総巻は高価)、焼き銘印等の外観因子の方が、大きく価格に影響していると考えられます。この領域になると、楽器としてのクオリティというよりも、プレミアム等の趣味の世界の話に入ってくると思います。

とはいえ、竹製篠笛の場合は楽器としての性能を満たしていれば良いというだけではなく、最低でも作りが丁寧であり、曲がり等がなく均整がとれた工芸品としての美しさを有しているものを選ぶべきと考えます。ケチって作りの雑な安価な笛を購入しても、いまいち愛着がわかず、結局後悔することになります。

よく、「初心者用の笛はどのくらいのクラスの物を選べば良いのでしょうか。」という質問を受けることがあります。一般的には、初心者は「安物」、上級者になるほど「高級品」を持つものという感覚を持たれているようですが、初心者ほど「音が出し易く、ピッチが正確に作られているもの」を選ぶ必要があると考えます。「音が出し易く、ピッチが正確に作られているもの」とは、すなわち品質の良い篠笛ということになりますので、安物ではダメだということです。ただし、初心者は途中で挫折する確率が極めて高いため、最初から高級品を買うと無駄な出費に終わってしまう可能性があります。そういう意味でも、プラスチック製篠笛は安価であるにもかかわらず「音が出し易く、ピッチが正確に作られている」ので、初心者には最適といえます。

  • 楽器への愛着の重要性
楽器としての性能を十分満たしていれば、できるだけ安価な(すなわちコスパの良い)物を選べば良いのではと思われがちですが、そう単純に決めつけられるものではありません。楽器というものは、性能面だけでなく愛着が持てる魅力を有しているということも重要な要素になります。
金属製や木製及び男竹製の横笛は、くり抜きや節抜き等の加工比率が高くなります。一方、篠笛は天然の篠竹をそのまま(内面切削等はしますが)共鳴筒として使用していることから、自然の造形物の姿が醸し出されているという特徴があります。この自然の造形美と、工芸品に仕立てる匠の技が組み合わさった篠笛は、長く所有していても飽きることがない至高の魅力を有している楽器といえます。

例えばフルートを購入する場合においても、楽器店に何度も通ってカタログを穴の開くほど見比べ、経験者からいろいろアドバイスをしてもらったりと、じっくりと選定プロセスを踏むことにより、その楽器への愛着度が高まっていくものです。そのようにして手に入れた憧れの楽器であれば、練習のモチベーションが上がり、自然に長く続けることができることになります。ネット通販で安物のフルートを衝動買いした人は、99%お蔵入りの運命にあります。
名匠が作った美しい笛は、それを手に持っているだけで幸せな気持ちにさせられる魅力を持っています。「この笛を綺麗に鳴らしたい」という想いを抱かせてくれることは、長く篠笛を続けられるモチベーションに繋がることになると思います。


  • 竹製篠笛の選び方
それでは、竹製の篠笛を選ぶ際は何を基準に選べばいいのかとなると、これはなかなか難しい問題です。
一般的には、筒径が太い管ほど大きな音量を出しやすいため威勢の良い祭囃子演奏に向いている一方、細い管は甲音が楽に出やすく繊細な演奏に向いているという特性があります。また、自動車のブレーキの踏み加減による制動の効き具合の癖が車によって微妙に異なるように、息の抵抗感についても、(何本調子かにもよりますが)製作者によって微妙な差が感じられます。ダイナミックレンジが狭い笛の場合、レスポンス良く軽く鳴らせる一方、調子に乗って勢いよく吹くと音が裏返りやすかったりとか、笛による特性の相違はどうしてもあります。しかし、それは笛の良し悪しの問題というより、奏者がその篠笛の特性を掴んで、うまくコントロールできているかどうかの慣れの要素の方が大きいと思います。

素人が外観だけ見よう見まねで作った代物は論外ですが、和楽器店やネット通販で販売されている竹製篠笛でも品質や特性にかなりの幅がありますので、リーズナブルな価格だからというだけで安易に選ぶのは危険です。プロの篠笛奏者が愛用している「鳳由、蜻蛉、丸山、蘭情、朗童」等のメジャーな銘の笛であれば、品質上の信頼性が高いため間違いはないでしょう。これら著名な工房製の篠笛は若干値は値は張りますが、先代からの製作技術の伝承や長年の製作経験を積んだ職人の作ですので、確かな音造りがされていることが保証できることから初心者にとっては無難な選択といます。
じゃあ、これらのうちどれが一番いいの?といわれると、人それぞれの相性や好みがありますので、「これ」と決めつけることはできません。私が所有している笛でいえば、蜻蛉、鳳由、空蝉、朗童、㐂月などは民謡や日本の唱歌等に向いているのに対し、蘭情、丸山、立平などは西洋音階系の曲でもピッチが合わせやすいといったように、調律の傾向に若干の違いがみられるのは、そもそも対象とするジャンルが異なることから、西洋音階に対するピッチの精度だけで優劣はつけれません。ミとファ間の半音を、ドレミ音階に忠実にピッチ合わせしたドレミ調横笛では、4の指孔径(7孔篠笛の場合)がかなり小さ目に加工されています。一方、長唄等の日本の曲の演奏を主に調律された唄用篠笛の指穴径の差はドレミ調ほど顕著ではありません(古典調とドレミ調の中間ぐらい)。これらを参考に、自分が主に演奏する曲種から選択するのもいいと思います。

ただし、誤解されないようにしていただきたいのは、前述した著名なブランド銘以外の笛ではダメなのかというと、決してそんなことはありません。無名な工房製の篠笛でも、上記銘の篠笛に劣らない秀逸なクオリティを有しているものは沢山あります。自分との相性に加え、竹製の篠笛は同じ笛師の作でも1本1本にバラツキがあることも踏まえると、単純にブランド銘だけで笛を選ぶというのは賢い選択とはいえません。一般的には、下図のように高級品ほどクオリティ(期待値)が高く、その分布のバラツキ(標準偏差)が小さい傾向にあります。また、高級品ほど出荷前の低品質品が厳しく選別管理されますので、高級品ほどクオリティが高いという認識は概ね間違ってはいないと思います。しかし、下の図のようなバラツキにより、高級品のAの笛と、廉価品のBの笛を比べたとき、あるお店で売っている笛では、稀にBの方がクオリティが高かったりする可能性もあり得ます。

篠笛クオリティのバラツキ

著名な銘が刻印されたものほど高価格となる傾向があることから、ネット情報だけに頼る人などは、ブランド銘だけの先入観で笛の価値を判断してしまいがちです。しかし、前述したように聴き手側が感じる音質は音響空間(エコー等)の影響が支配的で、笛自体による違いはほとんど判別不能であることから、笛の良否は吹奏感や音のバランスの良さで決まるものと考えるべきです。純粋に篠笛を楽しむだけであれば(ブランド品コレクタでもない限り)真に自分に最も合った笛であるかという観点を第一に選ぶのが望ましいと思います。前述のワインの例のように、ブランド銘が入った焼印の有無だけで笛の価値を評価してしまう人がいますが、そういう基準でしかクオリティの良し悪しを判別する能力がない素人の悲しさです。耳だけで篠笛のブランド銘を聴き分けられる人がいたら、お目にかかりたいものです。
ヴァイオリンの場合はストラディバリウスらしい響きとかガルネリらしい鳴り等、名品ほど個性を主張するようですが、篠笛の名品とは奏者の技量を極力ナチュラルに引き出せるように造られており、決して個性を主張することはありません。良い靴ほど履いていることを忘れてしまうほど自然に馴染んでくれるのに近い感覚、まるで自分の体の一部であるかの如く、笛の存在感を全く感じさせず演奏に没頭できるものが理想的であって、それとは逆に素人作の出来の悪い笛ほど手なずけるのに苦労する個性が強い笛といえるでしょう。
ノーブランド品の洋服でもセンスよく着こなしている人はかっこいいのと同じように、メジャーな銘の刻印が入った高価な笛でなくても和楽器専門店で一万円以上の製品の中から、筒音~大甲音までバランスよく鳴らすことができる笛を選ぶのが賢い選択方法だと考えます。自分に最も相性がいいと思う笛であれば、あとは奏者の慣れの問題だと思います。ただし、笛作りには10年以上の経験を積まないと本当の音は出せないと聞いたことがありますので、強いてどの工房製を選ぶかとなれば、出来るだけ製作年数の長い職人が作った笛を求められるのが望ましいのではないかと思います。
いずれにしても、篠笛の音色は奏者の技量でほとんど決まってしまうことから、趣味で用いる範疇においては、ブランド銘などは枝葉末節の違いに過ぎず、それに拘ることにどれだけの価値があるのかという気がします。それよりも大事な選択要素がたくさんあるという認識を持つ必要があるのではないでしょうか。

  • ネット通販利用時の留意点
前述したように、プラスチック製篠笛は品質が安定しているので、ネット通販を利用する場合でもほとんど心配はいりません。一方、竹製の篠笛は、品質のバラツキが大きいため、あまりに安価なものに飛びつくのは危険です。ネットショップで、いきなり買い物かごへ入力することはせずに、メールや電話で予め連絡し、親切に相談に乗ってくれる専門店から直接購入されることをお薦めします。篠笛に限らず事務的な通販手続き代行しか対応しないネットショップから楽器を購入するのはおススメしません。

竹製の笛は実際に吹き比べをして選択するのが望ましいと書きましたが、店頭での吹き比べにも注意が必要です。その時の自分の唇の状態も影響しますし、自分が普段使っている笛と特性が近いものや細径・薄肉管ほど鳴らしやすい傾向があり、それが良い笛だと勘違いしてしまう可能性もあります。前述したように、大甲音から筒音までバランス良く出せるものを選ぶようにすればよいと思います。信頼性のある工房の製品で、しっかした品質管理をしている販売店(篠笛が吹ける専門スタッフの品質チェックがなされているところ)のものなら、あまり神経質になる必要はないかもしれません。 
  • 中古品購入時の留意点
ネットオークションやフリマでも篠笛が出品されているのを見かけますが、篠笛に感心のない人に受け継がれた場合などは、完品の高級品であるにも関わらず比較的安価な値で出品されていることも時々あることから、上級者にとっては非常にありがたい市場でもあります。
しかし、純粋に楽器としてみた場合、中古品に手を出すのはかなりのリスクが伴います。線状の傷が見られた場合、表面だけに留まっているのか、内面に至る深い割れなのかは写真では判別できません。私も以前、外観には目立った割れも損傷も見られないにもかかわらず、全く鳴らない中古の篠笛に出会ったことがあります。これは、長年放置しっぱなしとなっていたことによる、過乾燥に伴う竹組織の変質等が影響しているのかもしれません。こうなると、もう二級品以下の価値しかありません。また、篠笛で最も重要な部分である唄口のエッジ部に凹凸荒れ等がなく綺麗な状態が保たれていることも重要なチェックポイントとなりますので、その部分が写真で明瞭に確認できない場合は要注意です。その他にも、写真では確認できない素人の手が加えられた品である可能性も考えられます。
オークションの場合、いくら鳴りが悪くても返品は困難です。ただでさえ竹製の篠笛は品質のバラツキが大きいのに、このような中古品による品質の不確定性が存在するリスクを考えると、初心者が手を出す世界ではないように思えます。そもそも、本当に良い篠笛なら、お手頃価格で手放される確率は非常に低いと考えるべきです。実際、真に欲しいと思う名工の完品の篠笛が出品されることはめったにありませんし、異常なプレミア価格が付くだけです。
頻繁に購入するものでもありませんし、篠笛中古品のお得感などたかが知れていますので、初心者が楽器として保証された音質を求めるのであれば、やはり専門店から新品を購入した方が愛着度の点でも断然優位で、後悔しない賢い手段だと思います。

前へ 1 2 3 4 5 6 次へ

① 篠笛の選び方と使い分け【その1】
③ 篠笛演奏における移調について
④ 五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法
⑤ 篠笛演奏における息コントロールと音質に関する考察
⑥ 篠笛の上達法
〇 篠笛の自動移調Excel

inserted by FC2 system