西洋音階(メジャースケール)では、下図に示すようにミとファの間、及びシとドの間が半音になっています。ピアノの場合はこの半音配置が一目瞭然なので問題ないのですが、木管楽器の場合は、リコーダーやフルートのようなモダン西洋楽器と、篠笛・バンスリのような民族楽器で、運指上の半音位置が一穴ずれてくることから、両者を使い分ける際に混乱が生じることがあります。そこで、このページでは、篠笛とリコーダー、フルート等の笛の運指の違いについて考察してみました。
紛らわしいのがピッコロ(ベーム式)です。ピッコロは最低音のC(ド)の足部管が付いていないため、D(レ)から始まる6穴が基本の構造となっています。このため、後述するD管6穴篠笛と同じ運指だと勘違いしそうですが、下図の最低音のドがないだけであり、基本運指はモダンフルートと同じC管運指の笛の仲間です。
篠笛は全てのkeyに対応できるように下のページで紹介しているように12種類の異なる調子のものがありますが、どれも半音配置は下の図ですので、移動ドにより同じ運指となります。 篠笛の選び方と使い分け【その1】 唄用篠笛には右手小指を用いる7つ穴のものが主流ですが、篠笛の一番右の指穴は特殊な用途だけに使われるものであり、基本は6穴篠笛と同じと考えればよいと思います。 世界中の民族楽器(インドのバンスリ、モンゴルのリンベ、南米のフラウタ等の所謂バンブーフルートと称されるもの)は、ほとんどがこのような6穴の配列となっています。また、モダンフルートの前身であるフラウト・トラヴェルソやアイリッシュフルート、更には最近よく見かけるようになったクリスタルフルートも、民族楽器系の笛と同じ半音配置となります。
このように、学校で習うモダン西洋楽器系の笛と、後者の民族楽器系の笛の運指が異なるため、混乱することになります。学校でリコーダー演奏を真面目にやっていた人や、吹奏楽部でフルート等を経験してきた人なら、例えば「ソ」の音符を見たら、条件反射的に左手の3つの穴を塞ぐ運指をしてしまうと思います。一方、篠笛のような民族楽器系の運指が身に付いている人は、左手の穴2つだけを塞くことになります。 このように、同じ「ソ」の運指が、上の図のようにモダン西洋楽器系と民族楽器系で大きく2つに分かれていますが、この違いは、笛の穴の数ではなく、ミとファの間、シとドの間の半音位置がどこに配置されているかによって決まることになります。 自分の所有している笛が、どちらの系統のものか分からないときは、ミとファを右手の中指で変える(モダン西洋楽器系)のか、人差し指で変える(民族楽器系)のかで判別すればいいことになります。この2つの音の間隔は半音なので、他の指穴に比べて小さいか、少し右に寄っています。 ケーナの場合は、裏穴も設けられており、一般のフォルクローレの曲ではG管(全穴閉でG音)が用いられるため、ト長調楽譜となっていますが、ミとファの間、シとドの間の半音位置は他の民族楽器系の笛と同じですので、移動ドで演奏する場合は篠笛と同じになります(上の図は他との比較のためCkey楽譜の運指で表記したものです)。一方、祭囃子用の篠笛の場合は、すべての指穴が均等に配置された日本音階のため、上記のような差は生じません。
フルートと篠笛の両方を使う人は、この問題をどのように解決しているのでしょうか?以下は、私が思いつく使い分け方です。 ① 固定ドに基づき、笛の調に応じた運指を駆使 音符の位置と笛の指穴ポジションの関係を固定せず、あくまでも固定ドに基づいて、C調のフルート、F調のアルトリコーダー、A調の五本調子篠笛等、笛のkeyに応じて、絶対音として一つの五線譜を読み分ける方法です。絶対音感がある人の場合、移動ド法により運指と鳴る音高が違うと混乱するので、この固定ド法を用いる方が受け入れやすいかもしれません。プロの人はこれが常識だと認識されているようで、この方法に基づいて篠笛の調子の使い分けを解説されている場合があります。しかし、この場合は笛のkey(篠笛の調子)によって五線譜の運指を変えなければならず、私のような絶対音感がなく頭が悪い者にとっては付いていけません。 ②移調する方法 主にフルートを中心にやってきた人の場合によく用いられている方法です。フルートを演奏する時はフルート譜そのままで演奏し、篠笛を演奏する時はハ長調であれば下図のようにニ長調に移調して演奏する方法です。最初のソプラノリコーダーの運指図で示したようなベーム式フルートの感覚で演奏可能となります。 この場合はあまりストレスを感じずにそのまま五線譜が読めますが、いちいち移調した楽譜を作成する手間が生じます。 ③ 篠笛数字譜を用いる場合 フルートを演奏する時はフルート譜のままで演奏し、篠笛を演奏する場合は篠笛用の数字譜を用いるように使い分ける方法です。市販の篠笛譜がそのまま使えるのが利点です。一方、五線譜を篠笛で演奏したい場合は、その下に篠笛譜の数字を書き加えるのが一般的です。移調が必要な場合でも、移調後の数字譜を書き込めば、何も考えずにその数字譜のまんま演奏すればよく、私のような頭が悪い人間でも容易に対応できます。 篠笛は移調楽器ですので、基本は移動ドによりどの調子(key)の笛も下の運指表を用いてかまいません(西洋楽器との合奏をしない場合)。 篠笛数字譜で読譜される人の移調方法については、以下のページを参照ください。 【五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法】 ↓に数字譜への自動移調計算エクセルを作成していますので、お試しください。 【篠笛の自動移調Excel】 よく、篠笛をリコーダーのように固定ドでKeyにより都度運指を変える実音楽器と同じように捉えている人がいて、インプット用五線譜とアウトプット用五線譜をごっちゃにして議論されることが混乱を招く原因となっています。詳細は、「篠笛の選び方と使い分け【その1】」を参照ください。
このような人には、下の写真のような多鍵式クラシカルフルート(クラシカルピッコロ)やアイリッシュフルートをお薦めします。これらは、ベーム式フルートのようなハ長調を基本とした運指とは異なり、6穴の民族楽器系と同じ半音配置(右手人差し指の穴が半音)となっています(バロック時代のフラウト・トラヴェルソと同じ)。この多鍵式クラシカルフルートは、クラシック音楽の演奏に用いられる実音楽器の仲間に入りますが、篠笛と同じように移動ドで演奏する移調楽器だと思って使えば、民族楽器系と同じ運指の笛として扱うことができます。クラシカルピッコロは十本調子の篠笛と同じ音程になります。 つまり、民族楽器系の笛に半音キーが付いたものと考えてもらえればいいと思います。このため、移動ドによる篠笛の演奏そのままの感覚で、半音が出てきた時だけ半音キーを使えばよく、今まで難しいと感じていた半音が頻繁に出てくる曲も、容易に安定した演奏ができるようになります。これにより、演奏可能な曲のレパートリーがぐんと拡がります。篠笛のように指穴半開による閉鎖的な音でなく、開放的で明瞭に鳴らせますので、一旦この笛に慣れたら篠笛に戻れなくなるのではと不安になるぐらいです。 また、多鍵式クラシカルフルート(あるいはアイリッシュフルート)は、ほとんどが木製ですので、金属フルートのような冷たさはなく、篠笛のような自然素材による暖かさがあって篠笛愛好者にはピッタリの楽器だと思います。 半音キーの数がいろいろなものがありますが、最低5つあれば全ての半音がカバーできることになります。
また、今は中学校ではバロック式であるアルトリコーダーが用いられており、地域によっては小学校からバロック式ソプラノリコーダーが採用されているんですね。最近は、小学校の音楽教育でピアニカを使用していることを考えると、ジャーマン式リコーダーの運指の単純さはあまり意味がないと思います。音楽教育の観点からはアルトリコーダーと同じバロック式で統一するのが望ましいと考えられます。
しかし、篠笛は世界のバンブーフルートの主流である6穴横笛と基本同じ運指ですので、この奏法を身に付けておくことは決してマイナスではないと思います。個人的には、小学校の低学年ではピアニカで長音階の配列を覚え、小学校高学年でバロック式リコーダー、中学校で篠笛というのが丁度よい気がします。 |
① 篠笛の選び方と使い分け【その1】 ② 篠笛の選び方と使い分け【その2】 ③ 篠笛演奏における移調について ④ 五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法 ⑤ 篠笛演奏における息コントロールと音質に関する考察 ⑥ 篠笛の上達法 〇 篠笛の自動移調Excel |