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 篠笛の選び方と使い分け 篠笛の選び方と使い分け 

篠笛の選び方と使い分け(2)   篠笛演奏における移調   五線譜から数字譜起しする方法   篠笛演奏での息コントロール   篠笛の上達方法

篠笛の選び方と使い分け【その1】
 
このサイトは、篠笛を始めたばかりの初心者や、これから篠笛を始めようとしている方のために、篠笛の種類と選び方や、調子の使い分けのポイントを解説したものです。
篠笛は、どの調子(一本調子~十二本調子)であろうが、共通の楽譜や運指による演奏ができる移調楽器です(同じ運指の場合、keyが異なるだけで演奏する旋律そのものは同じになります)。ところが、初心者の中には「このJ-POPの曲を演奏するには何本調子を購入すればいいのでしょうか?」とか「六本調子用の楽譜や教本はありますか?」といったように、調子によって楽譜や指使いが違ってくるものだと勘違いしている人が非常に多く見受けられます。それ以外にも、以下のような篠笛に対する多くの誤解が存在しています。

 
【よくみられる篠笛に対する誤解】
   調子によって運指(指使い)や教本が異なってくる。→ ×
   調子によって楽譜が異なってくる。→ ×
   曲に応じた調子を使い分けないといけないため複数の調子を揃える必要がある。→ ×
   八本調子は西洋楽器に合わせやすい。→ ×
   唄用篠笛は正確にドレミ音階に調律されたものほどクオリティが高い。→ ×
   篠笛のクオリティは価格に単純比例する。→ ×
   プラスチック製篠笛は竹製篠笛より劣る。→ ×

このように、篠笛の使い分け等に対する誤った認識を持たれている人が数多くいるにもかかわらず、それらについて適切に解説した教本やサイトがほとんど存在しないのが実態です。なかには、八本調子は西洋楽器に合わせやすくお薦めだと誤解されるような解説をして、篠笛購入検討中の初心者をミスリードするサイトまで見受けられます。
また、載せている篠笛用五線譜に、「この楽譜は八本調子用です。」とだけ注記したものを見かけることもあります。「えっ?だったら六本調子や七本調子しか持っていない人はどう譜読みすればいいの?」と誰だって疑問を持つはずなんですが、それに対して何の説明もされていないのです。
このような篠笛に関する認知レベルの現状を多少なりとも改善できないかとの想いから、本サイトでは篠笛の調子の違いの意味や使い分けなどについて、正しく認識してもらうための基本的事項について詳しく解説することにしました。上記の誤解を正すための箇所は多少冗長になっているかと思いますので、既知の事項は読み飛ばしてください。
なお私は、普段は理工学系の仕事を専門に携わっている者で、音楽や篠笛に関しては専門外の単なる趣味人に過ぎません。このため、プロの方からすると適切でない独断的な解釈をしている箇所が多々あるかと思いますので、その点ご理解の上閲覧ください。 そもそも、時代に応じて和洋折衷の要素を柔軟に取り込んできた篠笛というものは、「こうでなければならない!」と杓子定規に囚われる必要はなく、自分の都合のいいように解釈して楽しむことが許容される自由度のある楽器だと私は捉えています。

  • 篠笛の種類
Q.囃子用と唄用、6穴と7穴の違いは何でしょうか?
  • 囃子用(古典調)
主に祭囃子・神楽・獅子舞等の日本古来の郷土芸能に用いられてきた横笛で、指穴の大きさと間隔がほぼ均等に作られています。このため、ドレミ西洋音階の曲の演奏に使うことはできません。古来より地方の祭囃子用に用いられてきた横笛というものは、村の笛方がおおよその寸法に合わせて自作したものが伝承されてきたものですので、全国で統一した規格というものは存在せず、同じ六本調子の笛といっても、地域や作者によって半音程度の音程の相違があります。すなわち、囃子用篠笛を購入するにあたっては、「〇穴〇本調子」という情報だけでは意味がないということです。自分の地域で使われている笛のブランドと仕様を先輩の笛方に教えてもらった上で、それと同じ物を入手するのが基本となります。

よくネット上で、「〇〇地方の囃子用篠笛は、何本調子のものを購入すればよいでしょうか?」といった質問をされているのを見かけることがありますが、全国の人に尋ねてみても、地方の笛に関して的確な情報が得られる可能性はほぼゼロです。地方の囃子用篠笛に関する情報を得るには、そこで篠笛を吹いている笛方に直接尋ねるのが唯一の手段ですし、そもそも指使いや演奏作法等について先輩笛方の指導を受けずに、笛だけ入手しても何の使い物にもなりません。良く調べないままに通信販売の既製品を購入してしまうと、自分だけ皆と音が外れて迷惑をかけてしまうことになりますので、必ず笛方同士で合意されている同一ブランド(例えば獅子田流など)の笛を選ぶ必要があります。もし流通しているブランド品とは異なる地域独特の笛が用いられている場合であっても、オーダーメイドでの製作注文に応じてくれる笛工房であれば対応してもらえます。

囃子用篠笛

  • 唄用、ドレミ調
長唄や民謡を奏でるために指穴の大きさや間隔を変えて(ミとファの間、シとド間を半音に)調律した篠笛を唄用といいます。全音、半音の相対配列はどの調子の笛も共通ですので、後述する運指も共通となります。近年では、J-POPの演奏や西洋楽器との合奏が可能になるよう、チューナによって精確に西洋音階に調律(A=442Hz)したドレミ調のものが増えている傾向にあります。厳密な定義分けに従えば、前者は「唄用」、後者は「ドレミ調」と区別されるべきですが、後者も含めて「唄用」と呼ぶ場合もあります(唄用プラスチック製篠笛のネット通販レビューで「音程がずれている」という書き込みを見かけることがありますが、音程ではなくレビュー者の認識の方がずれています)。

ドレミ調は、和楽器としての篠笛とはいえず、バンブーフルートやアイリッシュフルートと同じ調律の西洋楽器としてのカテゴリに位置づけるべきだという意見もありますが、このサイトでは便宜的に「篠笛」と扱っています。たとえドレミ音階に調律されていても篠笛はあくまでも和楽器であって、厳密な西洋音楽理論に則った西洋楽器と同じように扱うと、後述するような誤った解釈をしてしまうことになります。

唄用篠笛

唄用、ドレミ調の見分け方としては、西洋音階に忠実にチューニングされたドレミ調(写真上の笛)は、半音と全音が明確に区別されており、第三~第四穴間が半音となるよう第四穴が他の穴径に比べ顕著に小さくなっています。一方、長唄や民謡演奏を前提としている唄用篠笛(写真下の笛)の場合は、第三穴が若干大きいか第四穴が僅かに小さい程度で、古典調篠笛とドレミ調篠笛の中間的なイメージです。
J-POP等の西洋音階の曲を主に演奏する人なら写真上の形の笛、和風の曲を主に演奏する人なら写真下の形の笛が向いているといえます。ただし、これらの調律の違いはメリ・カリで十分調整可能な範囲ですので、演奏曲が制約されてしまうほどの決定的な違いというものではありません。

篠笛指穴

唄用やドレミ調篠笛のように、第三~第四穴管を半音にする手段としては、下図に示すようにいくつかのパターンがあります。ケーナやバンブーフルート等の海外の民族楽器では、「タイプB」が主流となっているようです。一方、篠笛では指穴間隔が不揃いになるのを嫌うためか、「タイプA」または「タイプC」が多く採用されています。ちなみに、指穴間隔は高周波振動モードにおける波の節の位置に影響することから、大甲音のようにクロスフィンガリングを用いる場合においては、タイプによって最適運指が変わってくることも考えられます。


前述した囃子用とは異なり、唄用・ドレミ調篠笛はピッチが規格化されていますので、同じ調子であれば通信販売や笛工房に関わらず全国どこで購入しても基本的に問題ありません(唄用とドレミ調の調律の違いはありますが)。具体的な購入にあたっての留意事項は、篠笛の選び方と使い分け【その2】をご参照ください。
 
このサイトをご参考になさる方、すなわち趣味で篠笛を始めたいという人が対象とされるのは、ほとんどが唄用かドレミ調の篠笛だと思います。このうち、唄用篠笛で長唄や三味線に合わせて演奏するのが目的の人の場合は、既に師匠への師事のもと適切な指導を受けられているはずですので、ここであえて解説する必要もないと思われます。このため、以降本サイトでは、基本的に日本の唱歌やJ-POPなどを、篠笛ソロ演奏又はカラオケ伴奏をメインに演奏する人を対象として解説していきます。

  • 6穴と7穴
篠笛には指穴の数が6穴のものと7穴のものがありますが、一般的に唄用、ドレミ調として流通している篠笛は7穴が主流です。篠笛譜では、シ♭の運指に7番目の指穴が必要な「0」ポジションを使っていることや大甲音(3オクターブ目)の運指を考えると、7穴唄用を選ばれるのが無難かもしれません。
ただ、ドレミ音階を演奏するという観点だけでいえば6穴だけで足りることから、世界の竹製フルート(インドのバンスリや南米のフラウタ等)は6穴が主流です。また、一本調子のように指穴間隔が広くなると、第一穴を小指で塞ぐのは困難となります。篠笛にこだわらずに、竹製のドレミ調横笛を求めるというのであれば、どちらを選ばれてもかまわないでしょう。 

  • 篠笛の調子
Q.篠笛にはたくさんの調子がありますが、何がどう違うのでしょうか?
唄用篠笛は、もともとは長唄の伴奏において、唄い手のピッチに合わせて四本調子~七本調子程度の音域を中心に使われてきましたが、現在のドレミ調篠笛では西洋音階の12平均律に忠実に則った半音区切りで、最も低音で長い一本調子(F-key)から、最も高音で短い十二本調子(E-key)まで揃っています(一部には十三本調子というのもあるみたいです)。調子の数字が一つ小さくなるに従い半音ずつkeyが低くなり、長さは長くなります。当然ながら価格も調子の数字が小さい(長い)低音管ほど高価となります。

篠笛の調子

下図に示すように、篠笛のような管楽器の原理である共鳴筒の長さL(歌口~最初の開放穴までの長さ)は、共鳴振動の波長λに依存します。式で表すと、波長λ=V/f(V:音速一定、f:振動数)より、笛の長さLは音高(振動数f)に反比例することになります。ドレミ調篠笛は1オクターブ(振動数2倍)を12等分した平均律に則って作られていますので、調子が1つ小さくなる毎に笛の長さL(歌口~管尻)は、理論値で21/12 ≒約1.06倍ずつ指数関数曲線に沿って長くなります(厳密には開口端補正分のバイアスがあります)。これより、十三本調子と一本調子はちょうど1オクターブ違うことになります。   

共鳴振動数

Q.初心者は、どの調子の笛を選べばよいのでしょうか?
調子が12種類もあると、初心者は、どれを選べばよいのかとか、複数本揃えないといけないのかと悩んでしまいますよね。ですが、趣味で篠笛を始めようとする人なら、調子選びを難しく考えて悩む必要など全くないと思います。後述するように、ソロ演奏やカラオケ伴奏であれば、曲の調に合わせて調子を選択する必要などまったくなく、いずれかの調子の笛が1本だけあれば、どの曲であっても共通の篠笛譜を同じ指使いで演奏することができます。
初心者(大人)が最初に始める場合、一般的には五本調子~八本調子あたりから選んでおくのが無難なところといえます。中でも、構えた時の指の押さえ易さや音の出し易さ、篠笛らしい響きなどの観点から、六本調子や七本調子が最もポピュラーなものとなっています。私の場合も、和楽器としての篠笛らしい響きと演奏のし易さとのバランスが良い六本調子を中心に演奏していますが、篠笛の楽しみ方や音域の好みは個人個人によって千差万別ですので、「これがベストだ!」と決めつけられるものではありません。
手の大きさからは、一般には大人の男性は六本調子、大人の女性は七本調子、小学生は八本調子が自然に指穴に指を乗せときの配列になるといわれています。四本調子より長い篠笛になると、初心者は指穴をうまく押さえるのが難しくなります。初心者が篠笛をきれいに鳴らせない原因の一つとして、指穴の塞ぎが甘い(わずかな隙間が音を濁している)例が見られますので、最初は長い篠笛は避けた方が良いかもしれません。ただ、低音管は独特の落ち着いた響きが何とも言えない魅力でもありますので、指押さえに余裕が出てきたら三本調子などの長管に挑戦してみるのもいいかと思います。一方、九本調子より高音の篠笛となると、あまりに甲音い音のため心地良い響きからは離れていきますので、祭囃子用(古典調)が中心となり、唄用の需要はほとんどありません。私も十本調子の唄用篠笛を1本持っていますが、ここ数年演奏してみようと思ったことは一度もありません。

篠笛の調子を人間の歌声の音域に対応させると、以下のようになるそうです(実際の篠笛の周波数は、ト音記号で示される音符より1オクターブ高い音が出ます)。
 ・八本調子:小学生の低学年から幼稚園児の歌声
 ・七本調子:小学生の高学年の歌声
 ・六本調子:大人の女性の歌声
 ・四本調子:大人の男性の歌声
これより、六本調子が最も好まれ、普及しているのが納得できます。篠笛の人間国宝、寶山左衛門(四世)氏も著書「横笛の魅力」の中で「女性の方がうたうときは六笨調子くらいの笛を、男性の方がうたうときは四笨調子くらいの笛を使います。」と述べられています。 

最近は、ピアノ等の西洋楽器と合奏する場合に有利などといってC調の八本調子を薦める人が一部にありますが、その論旨には実用上何の意味もありません(その論旨でいくと、ドレミ調篠笛では八本調子以外の調子には存在価値がないことになってしまいます)。八本調子が西洋楽器と合わせやすいというのは、オリジナルがハ長調/イ短調(ピアノの白鍵のみ使用)の曲に限った話であって、他の調の曲では違う調子の笛の方が合わせ易いのです。しいていえば八本調子は小型で指穴間隔が狭いため、手の小さな小学生用には向いている程度に考えればよく、音の合わせ易さなどというものは関係ないと考えていいと思います。後述するように、和楽器である唄用篠笛は西洋楽器と合わせるためのものではなく、自分の一番気に入った音色の調子を選ぶのが基本だと思います。

Q.篠笛の音域は、他の楽器と比較するとどの範囲にあるのでしょうか?
ピアノの鍵盤を基準に篠笛と一般的な木管楽器の音域を比較すると下図のようになります。篠笛の音の高さはフルートとピッコロの中間ぐらいに位置していることが分かります。これだけ幅広い音域図から篠笛を眺めると、七本調子にするか六本調子にするかなど取るに足らない違いのように見えてしまいます。
このピアノ鍵盤との比較図を見て、ここで示される篠笛の調子の音域から外れる曲は演奏できないのかとか、調子によって運指を変えなければならないのではと誤解してしまう人がいるかもしれませんが、後述するように移動ド奏法を用いる移調楽器としてソロ演奏する場合においては全く心配する必要はありません。

篠笛の音域

  • 篠笛の運指
Q.調子によって運指は変わりますか?
いいえ、篠笛はどの調子であっても同じ運指となります。下の図のように、どの調子であっても全音と半音がすべて同じ相対配置になるように作られているため、共通の篠笛譜を同じ運指で演奏することができます。つまり、どの調子であっても、指穴6つを塞いだポジションを数字譜の[一]の運指で読むということです。「一」の運指から順番に開けていくと,すべて[全音、全音、半音、全音、全音、全音、半音(七と1の間)] というメジャースケールの順になっています。絶対音感がある人でない限り、どれも「ドレミファソラシ」と聞こえます。

指穴配列

つまり、「〇本調子用の楽譜」などというものは存在せず、すべての調子について下図に示す標準運指表(数字譜)を用いて共通の運指で演奏することになります。調子の違いとは、カラオケマシーンで同じ曲を自分の歌いやすいようにkey調整(+[♯],-[♭])するようなもので、同じ運指で異なる調子の笛を演奏してもメロディそのものが変わるものではありません。
移調楽器である篠笛の五線譜の読み方は、 通常の西洋楽器での絶対音程による五線譜の読み方とは異なり、数字譜の[一]のポジションに対応する音符を相対音高によってすべて同じ[ド]の位置としますので、どの調子であっても運指は変わりません。

篠笛の運指表

半音も含めた詳細な運指表は↓のPDFファイルを開いてください。
    篠笛運指 詳細篠笛(7穴)運指表

一部の教本では、西洋楽器と同じように絶対音高(固定ド)での五線譜扱いして、「この五線譜は八本調子限定です」などと注記している場合も見受けられます。しかし、移調楽器である篠笛では上図に示す五線譜のように相対音高での移調譜で扱うことにより、全ての調子に共通の運指を適用させるのが基本となります(そうでないと、八本調子以外では五線譜がまともに読めないことになってしまいます)。
このような混乱を招いている原因は、下の左図に示す演奏用インプット五線譜と、右図に示すアウトプット(実際に聴衆に聴こえる音高)五線譜とを区別せずに、ごちゃ混ぜに扱っているためと考えられます。なかには、右のアウトプット五線譜の下にインプット用の数字譜を併記するなど、初心者を混乱に陥れています。演奏する際は、どの調子であっても左図のインプット(共通運指)用の五線譜だけを読めばよく、右図のアウトプット五線譜など全く意識する必要はありません。前述したように、指穴の全音・半音配列はどの調子でも同じことから、各調子のアウトプットは全体の音高が上下にスライドするだけの違いに過ぎず、メロディそのものは同じになります。

インプット・アウトプット


後述するように、篠笛譜は演奏しやすい調に移調しているため、オリジナルKeyから外れてしまっていますので、絶対音高の五線譜に固執する意味は失われています。そもそも和楽器を五線譜で読むこと自体邪道だといわれれば、そのとおりかもしれませんが、西洋楽器経験者にも取っ付きやすい和洋折衷の譜読み方法だと柔軟に考えてもらえば良いのではないでしょうか。

半音も含めた平均律運指は、時刻などと同様の12進法(半音12個分進んだら上の位に上がる)となりますので、下の運指時計で示される音高関係になります(「二メ」等の「メ」記号は、指穴を半開にして半音低い音を出すときのメリ音の「メ」を示したもので、五線譜でいう♭を意味します。この図を見るたびに、音楽の世界に限らず自然界においては10進法よりも12進法の方が幾何学的に美しく、数学的にも理にかなっているように感じてしまいます)。
また、呂音、甲音、大甲音も含めた音高関係は、下の「らせん図」に示すように半音間隔で上がって行き、1周する(半音12個分進む)と1オクターブ高い音になります。同じ運指のままで息スピードを上げると呂音から甲音へ1オクターブ跳躍することができます。ただし大甲音は呂音・甲音の運指のままではうまく鳴らないため、上の運指表で示したような特殊な指使いとする必要があります。

篠笛運指時計

篠笛の運指らせん図

このように、どの調子の笛であっても同じ運指で演奏できるので、「この動画の曲を演奏するには何本調子の笛が必要ですか?」とか、「自分は七本調子の篠笛しか持ってないんですけど…」といった悩みには意味がなく、普通に趣味で篠笛を演奏するだけであれば、いずれかの調子の笛が1本だけあればよいということです。カラオケ等の伴奏に合わせて演奏したい場合は、後述するように伴奏側を篠笛の調子に合ったKeyにすればよい話であって、篠笛側が曲に合わせて調子を使い分ける必要などありません。
複数の調子の笛を持っている場合は、同じ曲を同じ運指で「昨日は七本調子で吹いたけど、今日は気分を変えて低音の五本調子で吹こう」でいいのであって、それが篠笛の楽しみ方の一つでもあるのです。

  • 実音楽器と移調楽器では譜読みが異なる!-【篠笛は移調楽器】
リコーダーで五線譜上の「ド」のポジションを押さえる場合、ソプラノリコーダーならすべての指穴を塞ぐのに対し、アルトリコーダーでは左手だけ全て塞いで、右手は全開放する運指となります。このようにして、(ラ(A4)の音であれば442Hzの高さと合うように)実際の音高を維持するよう、五線譜の読み方を楽器によって変えるものを「実音楽器」といいます。下図の「ド」の音符の場合、笛によって運指を変える必要があり、このような譜読みを「固定ド」奏法といいます。

固定ド

一方、アルトサックスとテナーサックスのように、Keyの異なる同種の楽器を全て同じ指使いで演奏することにより五線譜に記されている音(記音)と、その楽器が実際に鳴る音高(実音)が都度変わってくる楽器を「移調楽器」といいます。篠笛はこの移調楽器に該当します。全体としての音高(Key)は調子によって異なりますが、下の図に示す「移動ド法」により同じドレミ表記を全て同じ指使いで演奏できますので、どの調子の笛も統一的に前述の標準運指表を用いることができます。篠笛においては、全ての調子に適用できるインプット譜として、共通の数字譜、ドレミ表記、五線譜を用いることができるよう、数字譜で「一」に対応する音符はすべて同じ「ド」の位置とする相対音高での移調譜で読むのが一般的です。

移動ド

【参考】「移動ド」とは
移調楽器を演奏する際、曲の調によって絶対音高五線譜上の「ド」(篠笛の数字譜の「一」ポジション)の位置が移動することを「移動ド」奏法といいます。フルートのような半音キーメカが付いてない篠笛は、この移動ド法を用いることによって、半音記号の多い調の曲であっても上述の基本運指に置き換えた演奏が可能となります。この場合、下図のように調子によって絶対音高五線譜上のドの位置が違ってきますが、篠笛演奏時(インプット用)には相対音高による移調譜を使用しますので、上図のようにどの調子の笛も同じドレミ位置として読む五線譜読みとなります。

篠笛移動ド

  • 誤解を招く不適切な運指表
八本調子以外の調子について、下のように絶対音高による五線譜と篠笛の運指を対応させた図が世の中に出回っていますが、これが「八本調子が最も演奏し易い」などという篠笛の運指に対する誤解を招いている最大の元凶と考えられます。これは、前述したように聴衆側に立ったアウトプット用の絶対音高五線譜であり、七本調子や六本調子しか持っていない人にとっては、実音楽譜による譜読み方法について何の解説もなく、こんな♯や♭がたくさん付いている音符だけ並べられても、どう譜読みしていいのか途方に暮れてしまいますよね。

篠笛実音運指表

移調楽器である篠笛奏者用の五線譜の運指対応図は、下の図のように全ての調子について相対音高による共通のインプット用五線譜(移調譜)と運指表だけを意識すればよいのであって、上の図のような西洋楽器と同じ実音によるアウトプット五線譜は(絶対音感がある人以外には)ただ混乱を招くだけであり、篠笛演奏するうえでは実用上何の役にも立たない図です。

篠笛相対運指表

  • 調子ごとの音高対応図の提案
どうしても調子ごとの音高の対応を表した図を示したい場合、上のような実音の五線譜による比較では誤解を招いてしまいますので、このサイトでは下図のような相対音高の移調譜(インプット)に対応するピアノ鍵盤の絶対音高(アウトプット)を表した対応グラフを提案します。このグラフの見方は、例えば三本調子の「四」の運指の音高を知りたければ、数字譜の「四(ファ)」の軸を上っていき、三本調子の緑の線と交わる点から真横の点線に辿っていくと絶対音高であるピアノ鍵盤の「C5」の音高であることが分かります。この「C5」の音は八本調子であれば「一(ド)」の運指と同じ音高であることが分かります。ただし、この図を見て八本調子は五線譜とピアノの音程が合致しているので西洋楽器に合わせやすいと勘違いしてはいけません。後述するように篠笛では移調(曲全体の音程を上げ下げする)という操作が入ってくるため、曲を演奏する上では何の意味もありません。
このグラフにおいて、篠笛のみのソロ演奏をする(西洋楽器と合奏しない)場合は右のピアノ鍵盤は意味をなさなくなることから、どの調子であっても一番下の相対音高や数字譜だけを意識すればよいことが理解できると思います。


篠笛の絶対音高対応表

【参考】基本運指での「相対音高」と「絶対音高」
下のグラフは、篠笛の全音域にわたる基本運指の相対音高(インプット)と縦軸の絶対音高(アウトプット)の関係を示したものです(周波数を対数目盛で示しているため各ピッチは等間隔となっています)。例えば、絶対音高がA5(884Hz)の音を出す運指は、五本調子では1(ド)ですが、八本調子では六(ラ)となることが分かります。
ここで、実音楽器では縦軸の絶対音高を基準に演奏しますが、篠笛の基本運指ではどの調子であっても半音・全音の傾きの形が同じ相似形となっていますので、横軸で示される相対音高だけを意識して演奏すればいいということです。絶対音高(縦軸)は西洋楽器やカラオケ伴奏と合わせる時だけ意味を持つものであって、通常は意識する必要はありません。

篠笛絶対音高

【参考】調子を西洋音階に対応させた場合の表

各調子の笛を前述の基本運指図で演奏した場合の、西洋楽器のメジャースケールとマイナースケールへの対応は下の表で示されます。八本調子の場合はハ長調(イ短調)、一本調子の場合はへ長調(ニ短調)、三本調子の場合はト長調(ホ短調)が対応していることを示しています。例えば、手元にト長調(♯1つ)の楽譜があって、これを上の基本運指で(ハ長調に移調して)演奏する場合は、三本調子を用いると西洋楽器の音程と合うということになります。吹奏楽経験者なら、八本調子はツェー(C)管、三本調子はゲー(G)管などと呼んだ方がピンと来るかもしれません。
篠笛教本によっては、調子の説明をこの表を提示しただけで何の解説もされていないものもあって、「へ長調の曲を演奏するには一本調子、ホ長調の曲を演奏するには十二本調子の篠笛で吹かないといけないの?」と勘違いしている人が非常に多くみられます。何度も言いますが、演奏したい曲の調(key)をもとに購入する調子を選ぶことは決してありません。この表に合わせるために、超レアな調子(超低音で長大な一本調子や極短で超高音の十二本調子)を揃えるなど全くナンセンスです。前述したように調子とはカラオケマシーンのkey調整の違いにしか過ぎませんので、普通の人が趣味で篠笛演奏を楽しむには全く考慮する必要のない表だと思ってください。

 

Q.♯や♭が付いた調性(key)の曲の運指はどうなるのでしょうか?
半音キーのメカニズムが付いているフルートやピッコロであれば、頭に♯、♭の半音記号がたくさん付いている調性の曲でも難なく演奏可能です。一方、半音キーがついていない篠笛で半音を演奏するには、以下に示す指穴半開やクロスフィンガリングのテクニックを駆使しなければなりません。半音記号が2つ以下の曲までなら何とか対応できますが、下の楽譜のように3つ以上半音記号が付くと演奏の難易度が高くなります。

篠笛半音

半音運指

このように、篠笛で半音記号が多い調を演奏する場合、オリジナルのKeyのままでは難しいことから、下のページで示すように篠笛で演奏しやすい(♯、♭が少ない)調に移調して演奏する必要が生じることになります。篠笛は、この移調(曲全体の音程を上げ下げする)という行為が必然的に入ってくることから、「八本調子は西洋楽器と合いやすい」などいう都市伝説というものは実用上意味をなさないということです。
【篠笛演奏における移調について】

Q.J-POPを演奏するには何本調子を買えばいいですか?八本調子は西洋楽器と合せやすいと聞いたのですが…

「J-POPに最も合わせやすいのは〇本調子!」といったオールマイティの調子の篠笛などというものは存在しません。しいていえば、西洋楽器と合奏する場合においては、曲の調に応じて得意の調子があるということだけです。そういう意味において、全ての調子に優劣というものは存在せず、特定の調子だけが西洋楽器に合わせやすいということはありません。
ボルトのサイズに応じて使い分ける必要があるスパナレンチと同様に、篠笛ですべての曲をオリジナルのKeyに合わせるとなると、極端にいえば一本調子~十二本調子すべてを揃えないといけないことになってしまいます。プロの和楽器バンドの篠笛奏者でもない限り、12種類の異なる調子を全て揃えて、どの調の曲にも合わせられるようにしている人などほとんどいないと思います(実際には3~4種類あれば全ての調がカバーできます。「篠笛演奏における移調について」参照)。趣味で篠笛を演奏するだけなら、移調楽器だと割り切って、どのKeyの曲であっても自分が持っている調子の笛だけで気にせずに演奏してなんの問題もありません。

調子-ボルト対応

一部の人が「八本調子は西洋楽器に合わせやすい。」などと言っているのは、前掲した「篠笛の調子とピアノ音高の対応図」を見ればわかるように、基本運指で演奏した場合に「ピアノの白鍵の音に合う」というだけのことに過ぎません。八本調子が合うのは、オリジナルがピアノの白鍵しか使わない曲(ハ長調/イ短調)を、ピアノも篠笛もそのままハ長調(イ短調)楽譜で演奏するという特定のシチュエーションに限った場合の話なのです。実際のJ-POPの曲は黒鍵の音も使った様々な調性で作られていますので、何度もいいますが「八本調子はドレミの曲に合わせやすい。」というのは完全に誤った認識ということです。既に複数の調子の篠笛を使い分けされている人なら、八本調子だけ特別に西洋楽器に合わせやすいなどというデマには実用上何の意味もないことを実感されているはずです。

「でも、手元にある篠笛譜を見ると、半音が付いてる曲はほとんどないし(あったとしてもせいぜい[七メ]ぐらいだし)、やっぱり八本調子が一番合わせやすいんじゃないの?」と思われる人がいるかもしれません。しかし、市販されている篠笛楽譜は、演奏しやすいように半音記号が少ない調(ハ長調、へ長調、ト長調)に移調操作された後のものとなっています。すなわち、その時点ですでにオリジナルの曲のKeyから外れたものとなっているのです。この移調された(曲全体の音程が上げ下げされた)篠笛譜を八本調子で演奏したところで、オリジナルのKeyで演奏されるカラオケやピアノ演奏とは合わないということです。

市販篠笛譜

半音キーメカが付いたピッコロやフルートであれば、どのような曲であってもオリジナルKeyに合わせた演奏が容易にできますので、前述のボルト締め付け工具の例えでいえばモンキーレンチに相当します。一方、半音キーメカのない篠笛では、演奏し易いように半音記号が少ない調に移調しなければならず、それに伴って曲全体のKeyがオリジナルの曲から外れてしまいますので、西洋楽器と合奏するのであれば曲に応じて複数の調子の笛を使い分けなければならなくなります。


篠笛スパナ

手持ちの篠笛を伴奏付きで演奏したい場合や、J-POPの篠笛演奏を披露したい場合等、ピアノやカラオケの伴奏に合わせて演奏したいときがあります。しかし、例えば六本調子で下のハ長調楽譜(相対音高)を篠笛運指で演奏すると、実際に鳴る絶対音程(アウトプット)は変ロ長調となりますので、オリジナルkeyで演奏する伴奏と合わなくなります。この場合は、ピアノ伴奏側を変ロ長調楽譜に移調して演奏してもらえば簡単に合わせることができます。篠笛奏者はハ長調楽譜(パート譜)、ピアノ奏者は変ロ長調楽譜(伴奏譜)と、調が異なる二種類の楽譜を用いる必要が生じますが、ピアノ奏者にとっては半音記号が多い曲でも難なく対応できます。カラオケマシーンやMIDI伴奏であれば、もっと簡単に任意の調にトランスポーズ(移調)できますので、何本調子であっても合わせることが可能です(カラオケ伴奏の合わせ方)。もし、オリジナルが変ロ長調の曲だったら、ピアノ伴奏譜はそのままで六本調子篠笛だけハ長調に移調すればよいということです。

ヒアノ伴奏譜

篠笛でよく演奏される、「もののけ姫」のオリジナルkeyはハ短調(♭三つ)なのですが、市販されている篠笛譜では演奏し易いようにニ短調(♭一つ)に移調して書かれているのが一般的です(半音記号ゼロのイ短調に移調すると、篠笛で演奏しやすい音域から外れるため)。これを八本調子でそのまま演奏すると、オリジナルkeyのピアノ伴奏より半音二つ分高くなってしまいます。元の音高に戻すには、それより半音二つ低い六本調子とする必要があります。すなわち、ニ短調楽譜で書かれた「もののけ姫」を西洋楽器と合奏する場合は、六本調子が最も合わせやすい調子ということになります。

もののけ姫移調

このように、演奏し易い調に移調した楽譜で、オリジナルKeyの伴奏で演奏をしたい場合は、下の対応表に示す調子を選択することにより合わせることができます。移調前(オリジナルkey)の半音記号の数と、移調後の半音記号の数が交わったところが、伴奏keyに合わせられる調子を示します。上で述べたニ短調(♭1つ)楽譜の「もののけ姫」の例(♭3つ→♭1つに移調)では、六本調子が合致することがこの対応表からも分かります。


移調後調子選択

印刷用の調子対応表こちらから

以上説明してきた移調や、調子選び方法を自動計算するエクセルを下のページからダウンロードできますので、一度使ってみてください。

以上をまとめると、篠笛の演奏スタイルは下表の3つに大別することができ、自分がどの演奏スタイルに該当するかが、調子を選ぶ上での最も基本となる前提条件ということになります。曲に合わせて複数の調子を使い分ける必要があるのは[ケース3]のみですので、[ケース1]や[ケース2]の演奏スタイルしかしないのであれば、どの調子の笛でも1本あれば対応可能です。冒頭で述べたような調子に対する誤解が生じている理由は、この3つのケースの使い分けが理解できずに、どんな演奏スタイルでも[ケース3]で対応しなければならないと思い込んでしまっているためと考えられます。


西洋楽器との合奏が目的の場合は、12平均律音階全てに対応できる半音キーメカが付いており、かつ頭部管の抜き差しによりピッチの微調整が可能なフルートやピッコロを用いるのが理に適っています。篠笛で西洋楽器と合わせるとなると、半音のピッチ合わせが不安定なことに加え、曲の音階に合った複数の調子の笛を使い分けなければならない等、不都合ばかりで何のメリットもありません。西洋楽器との合奏のために、わざわざ篠笛を用いるというのは、羽子板でバトミントンの試合に挑むようなもので、元々無理があるというものです。篠笛は、やはり和楽器バンドのような和楽器同士のセッションが似合う楽器だと思います。

 【その2】に続く。
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② 篠笛の選び方と使い分け【その2】
③ 篠笛演奏における移調について
④ 五線譜から篠笛譜(数字譜)起こしする方法
⑤ 篠笛演奏における息コントロールと音質に関する考察
⑥ 篠笛の上達法
〇 篠笛の自動移調Excel

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